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  • 2012年夏号

防災・節電 専門家に学ぶ、今求められているマンションの対策

東日本大震災を機に、また、首都直下型地震の心配もあって、人々の「防災意識」が高まっています。マンション管理組合や居住者が備えておくべき災害対策について専門家がわかりやすく解説します。また、原発停止による電力不足の不安も広がりつつあります。節電編として、節電対策を実施し効果を上げているマンションの事例も紹介します。

◆[防災編]地震に備える

東京消防庁 防災部 震災対策課 震災対策係長 課長補佐 水村 一明

近年発生した地震における家具類の転倒・落下・移動が原因のけが人の割合 東京消防庁では、大きな被害を伴う地震が発生した場合、被害状況の現地調査を行っています。その結果、近年発生した地震被害では負傷者の3~5割の方々が屋内における家具類の転倒・落下によって負傷していることが判明しました。地震時にはテレビ、電子レンジなどの家電製品の転倒・落下・移動(以下「転倒等」という)や、本棚やタンス、食器棚などの大きな家具が転倒等することがあります。

また、平成23年3月の東日本大震災を受け、東京消防庁が実施した調査では、家具類の転倒等が高層階に行くほど多く発生している傾向が確認されました。この原因の一つに長周期地震動の影響が考えられることから、東京消防庁では、長周期地震動を含む地震に対する高層階の室内安全対策専門委員会を設置し、高層階等における家具類の転倒等防止対策を検討しました。

その中で、高層階において長周期地震動が発生した場合には、大きくゆっくりとした揺れにより「移動」が生じる可能性があり、本委員会で、高層階における家具類の転倒・落下に加え、新たに「移動」防止対策を中心に検討を行いました。

都内における階層別の家具類の転倒・落下・発生割合 家具類が地震により転倒等すると、転倒等した家具類の下敷きになるほか、移動した家具が衝突して負傷したり、転倒等した家具類が出入口を塞ふさいで避難障害を発生させる危険性があります。また、家具などがストーブなどに転倒等して出火するなど、二次的な被害も引き起こします。ご自分やご家族の負傷を防止し、避難障害の発生を防ぐためには、家具類の転倒等防止対策が非常に大切です。

① 家具類の転倒等防止対策

家具類の転倒等防止対策 転倒等防止を行う際、次の順にご自宅の対策を検討してください。

① 納戸やクローゼット、据え付け収納家具への集中収納により、努めて生活空間に家具類を置かないようにしましょう。
② 負傷や避難障害を発生させにくいレイアウト上の工夫を行うことが重要です。
③ レイアウト上の対策をしたうえで適切な転倒等防止対策を行いましょう。
④ キャスター付きの家具には日常的に移動することを求められるものと日常的な移動は求められないものがあります。日常的に移動が求められないものとは、引っ越しや部屋の模様替えの時だけ移動するような家具です。
⑤長周期地震動では、テーブルやイスなど、必ずしも壁面に接して配置することがない背の低い家具類も移動する可能性があるため、これらの家具類の移動防止対策をする必要があります。

② 家具類の転倒等防止対策の留意点

避難路をふさがない配置にします。廊下には家具類を置かないようにします。 紹介することに注意して確実な方法で対策を実施してください。

(1)レイアウト
負傷や避難障害を発生させにくいレイアウト上の工夫を行うために、避難通路、出入口周辺に転倒、移動しやすい家具類を置かないようにしましょう。また、引き出しが飛び出すことで、つまずいてケガをしたり、避難の妨げになることがあるので、家具類を置く方向にも注意しましょう。

特に、「寝る場所」や「座る場所」にはなるべく家具を置かないようにしましょう。置く場合には背の低い家具にするか、家具の置き方を工夫します。

さらに、外に落下する危険があるので、窓際には重量物や転倒等しやすい物を置かないようにしましょう。

また、緊急地震速報を受けた場合、退避できるように、なるべくものを置かない安全スペースを作っておきましょう。安全スペースの例としては、寝室・自宅内廊下・共用廊下・エレベーターホールなどで、安全スペースには、避難時に散乱した屋内収容物(陶器など)やガラスなどによる負傷を避けるため、厚手の手袋、底の厚い履物などを用意しておきましょう。

(2)転倒等防止対策
転倒等防止対策の基本は、ネジによる壁への固定です。その場合、家具を固定する対象は、壁下地の柱、間柱、胴縁等とします。しかし、マンションの共用部分の壁など、穴をあけることができないため、転倒防止器具が取り付けられない場合も想定されます。最近では、転倒防止器具の取り付けができる機能がついた壁のマンションも出てきましたので、管理会社などに相談してください。
また、上下2段に分かれる家具は、上段が落下する危険があるので平型金具などで、連結してください。

㋐付け鴨居に固定する場合
居室の壁に付け鴨居や長な げ押し、横木などがある場合は、ベルト式やチェーン式などの器具を使って固定する方法があります。付け鴨居等が石膏ボードに接着剤で付けられている構造の場合は、付け鴨居等を間柱等に木ネジで止めたうえで、対策器具を取り付けます。

㋑ポール式転倒防止器具・ストッパー式器具の取付方法
壁や柱にネジ止めできない場合、天井との間にポールを突っ張って、固定する方法などがあります。その際次のことに注意してください。
●ポール式器具は、家具の両側の側板部の壁側奥に設置します。
●ポール式器具はできるだけ奥に取り付けます。ポール式器具を取り付ける時は天井に十分な強度(マンションのコンクリート天井など)があることを確認します。
●天井に強度がない場合には、天井側に家具の幅以上の板で補強し、更にポール式と当て板をネジで固定すると効果が高くなります。
●ポール式器具は奥行きのない家具、天井との間隔が大きい場合には不向きです。
●ストッパー式器具は家具の端から端まで敷きます。
●ストッパー式やマット式の単独使用は、大きな家具の場合は一般的に適しません。
●二段重ねの家具類は、上下を平型金具等で連結して一体化したうえで、家具の固定を行います。連結をしない場合は、上段、下段それぞれを横木等に固定します。

㋒収容物の工夫
重いものを下に置くことで、家具の重心を下げ、転倒しにくくします。

テレビの転倒防止対策 (3)家電製品の転倒等防止対策
家電製品の転倒等対策をする際次のことに注意しましょう。
㋐テレビ
●床、壁に固定されたテレビ台とテレビを直接固定するのが最も確実な方法です。
●ストラップを使って連結・固定する場合は、テレビ本体の形状・重量に応じて本数を増やすことが重要です。(4本以上)
●粘着性マットで固定する場合は重量、台座の形状のほかに、取付け面の凹凸にも注意しましょう。(凹凸が大きいと粘着しない)
●壁等とヒートン(リング式)を使用して固定する場合は壁の強度と、テレビの重量に耐えるヒートンや紐の太さ、強度を確認しましょう。
●キャスター付きのテレビ台は、移動防止対策をしておくことが重要です。
●「薄型テレビ本体(または脚など)を、直接ボルト等でテレビ台に固定することができる商品は、取扱説明書の方法に従って取り付けてください。
●壁からヒートン及びロープ等で転倒防止をする場合は、ヒートンは壁の強度のある間柱等に取り付けるとともに、テレビの重量に耐えるヒートン(リング式)及びロープを選びます。
●テレビがテレビ台へのネジ固定に対応したものとなっていない場合は、ストラップ式器具や粘着マット式等で固定します。この場合、テレビの重量等に応じて、ストラップ式や粘着マットの数を増やします。
●テレビは重心が高いため、テレビをテレビ台に固定したのみでは、テレビ台ごと転倒することがあります。テレビ台にも転倒防止対策を行うことが重要です。

㋑冷蔵庫
●冷蔵庫の背面上部のベルト取付け部分と壁とをベルトで連結しましょう。
●冷蔵庫は、移動や転倒したときに備え、避難の障害にならないように置き方や置く場所を工夫しましょう。
●冷蔵庫の固定脚を引き出し、ロックするとともに、必ず上部固定も併用しましょう。

(4)収容物等の飛散防止
地震等によりガラスや食器が飛散すると、負傷原因や避難障害となります。次のことに注意しガラスの飛散、収容物の飛散防止をしましょう。
●ガラスの破損や収納物の飛び出しを防止するためには、ガラス飛散防止フィルムの貼り付けが効果的です。ガラス戸の両面に貼ることにより飛散防止効果が高くなります。
●片面に貼る場合は、外側のガラス面に貼ってください。霧吹きなどで、ガラスとフィルムに十分な水を吹きかけて貼り付けします。
●観音開きの扉には扉開放防止器具を設置します。扉開放防止器具には、粘着タイプやチェーンタイプ、ネジで固定できる掛け金タイプ、感震ラッチなどがあります。