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  • 2012年秋号

マンション居住者の〝高齢化〟を考える

マンションでは、長く住むうちに建物・居住者ともに高齢化が進み、建て替えや大規模修繕などのハード面の対策だけでなく、高齢の居住者をどう支えていくのかも共同生活の課題となります。
居住者の高齢化に対する官民の取り組みや、住民主導で対策を行っている先進事例をもとに、分譲マンションにおける高齢者の生活支援のあり方や課題について考察しました。

世帯主の高齢化が進む

日本で最初の分譲マンションが登場してから60年近くが経ちます。国土交通省の推計では、2011年末時点のマンションストック総数は579・6万戸で、約1400万人が居住しています。老朽マンションも増えており、築30年以上のストックは約106万戸になります〈図表1〉。
全国の分譲マンションストック戸数 居住者の高齢化も進行しています。国土交通省「マンション総合調査」(平成15年度・20年度)でマンションの世帯主の年齢をみると、60歳代以上は1980年度には1割に満たないほどでしたが、2008年度には約4割にまで増加しています。また、70歳以上も2008年度には1割を超えています〈図表2〉。
マンション世帯主の年代の推移

マンションの築年数経過における60歳以上のみ世帯の割合 老朽マンションでは居住者の高齢化はさらに深刻です。国土交通省の集計によると、2008年時点での「60歳以上のみ」世帯の割合は、建物の築年数が経過するとともに上昇し、1970年以前に建築されたマンションでは実に過半数を超えています〈図表3〉。こうした老朽マンションは、専有面積が50㎡に満たない狭小住戸の割合が大きい上に、エレベーターが設置されていなかったり、専有部内に大きな段差があるなどバリアフリー未対応の建物も多く、高齢居住者の自立生活を十分に支えきれないという不安があります。

行政や管理業界の取り組み

今後もマンション居住者の高齢化が進み、一人暮らしや夫婦のみ世帯の増加が見込まれることから、官民それぞれの立場でいくつかの取り組みが行われています。

●高齢者住宅支援員の育成

厚生労働省は、高齢者向けの安心な住環境確保の対策の一つとして、2007年度に「高齢者住宅支援員研修等事業」を創設しました。高齢者住宅支援員とは、高齢者が住み慣れた自宅や地域で長く生活できるよう支援する専門人材です。高齢者が多く居住する公営住宅や民間マンションなどで、高齢者への見守りや声かけ、福祉・保健・医療など関係機関へのつなぎ・橋渡しについて、一定の知識や技術を習得した上で、日常活動の一環としてこれらの役割を担います。対象者は、マンションの管理員、管理組合の代表者、自治会関係者などで、地域の人材を有効に活用することを想定しています。

高齢者住宅支援員研修等事業の実施主体は都道府県で、人材育成に係る研修事業などを行う場合、その費用を国・自治体が2分の1ずつ負担します。残念なのは、制度創設から5年が経つにもかかわらず、活用に広がりが見られないことです。高齢居住者の多いマンションの管理員や管理組合役員などが介護などの基本的な知識やいざという時の実務的な解決能力を身に着けられる制度として期待されたものの、2007年度以降継続して研修事業を実施しているのは東京都などごく一部の自治体にとどまります。国が同制度の普及啓発に一層力を入れるとともに、研修を行う自治体が増えることを期待したいところです。