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  • 2012年秋号

マンション居住者の〝高齢化〟を考える

●居住者台帳の整備を進める

第2期理事会では、管理組合とは別にマンション独自の自治会を設置することを目指し、2005年春に「ソフィアステイシア自治会」を発足させました。同じ住民が管理組合と自治会に加入するため、両組織の理念や方針に違いが生じないよう、管理規約を改正して自治会組織を規約の中に明記したほか、両組織をつなぐパイプ役として兼任理事3名の配置を決めました。自治会の構成員には賃貸化住戸の居住者も含まれますが、事前の周到な準備や取り組みによって、会員組織率は現在100%(全世帯加入)を達成しています。自治会では発足直後から、災害や事故・急病時に備えるため、居住者台帳の整備に着手しました。記入項目は、血液型、自力避難に支障があるか、既往症、常用薬・禁忌薬の有無、かかりつけの病院や医師、緊急連絡先の住所・電話番号など、詳細多岐にわたります〈図表4〉。
居住者台帳 当初は、「行政にも伝えていないような個人情報をなぜ自治会に提出しなければならないのか」「もし自分の個人情報が外部に流出したら、誰が責任を取ってくれるのか」といった反対意見も数多く出たそうですが、自治会長などが中心となり、「命より大事な個人情報はない」と地道に説明・説得を続けました。ある時、一人暮らしの高齢女性が深夜に熱中症を起こし、マンション自治会の民生委員に電話で助けを求めるという事態が発生しました。民生委員と自治会長の2人ですぐさま駆けつけ、部屋で倒れている女性を救急車で搬送しましたが、居住者台帳を提出していた人だったことから、既往症やかかりつけ病院などもすぐにわかり、事なきを得ました。この一件があった後、台帳の提出率は急上昇し、現在では95%の世帯が全項目をすべて記入した上で提出に応じているそうです。

この出来事からもわかるとおり、賃貸化住戸も含めた大半の居住者が詳細な個人情報を記載した台帳を提出することに同意しているのは、「自分の身辺に緊急事態が生じた時、自治体に個人情報を提供していてもすぐ助けにきてくれるかどうかわからないが、お互いの顔を見知っているマンションの住民組織なら間違いなく速やかに駆けつけて対処してくれるだろう」との信頼があるからこそだと思います。

同マンションでの居住者台帳の利用方法ですが、非常時にいちいち台帳が保管されている場所に誰かが駆けつけて、該当ページをめくって記載内容を確認しているようでは救急救命や大災害時に役に立たないとの判断から、 災害時の被災リスク(逃げ遅れなど)が高い人や、急病を発症する可能性が高い人については、当該居住者の記載事項を自治会および自主防災会(管理組合・自治会合同で編成する組織)の中枢メンバーが暗記しています。詳細な個人情報であるため、管理や取り扱いには十分注意しながらも、一分一秒を争う緊急時にも対処できる方法を採っています。

急病などで住民を救急搬送する場合は、地域の救急指定病院(ほとんどが地域医療支援病院の承認を受けている)に救急車で搬送し、極力自主防災会の役員などが救急車に同乗するそうです。大半の居住者が台帳を提出しているため、搬送中にかかりつけ病院の情報を提供すれば、救急指定病院とかかりつけ病院との間で患者の既往症や診療履歴について確認ややりとりをすることができ、迅速に対処できるというメリットがあります。

●日頃の準備・対策・訓練が活きた3・11当日

同マンションでは、自治会による台帳の整備によって、災害時などに援護を要する居住者もすべて把握しています。309世帯を11ブロックに分け、ブロックごとに輪番でリーダーが任命されており、緊急避難時にはこのリーダーが要援護者の安否確認や避難誘導を行います。重度要援護者の自宅には自主防災会で購入した救助用担架や車いすが無償で貸与されており、いざという時迅速な避難ができるようにしています。

日頃からの周到な準備や対策で培った防災力は、東日本大震災発生時にも十分生かされることになりました。当日は、地震発生から間もなくして大津波警報が周辺一帯で鳴り響きましたが、自主防災会の役員が低層階に住む居住者に対し、6階以上の上層階へ避難するよう呼びかけを開始。同時に建物内を巡回して、高齢者など自力避難が困難な要援護者の避難誘導を手分けして行いました。

平日の昼間に発生した地震であったため、リーダーとなる自治会長や管理組合理事長は勤務先で被災し、現場で陣頭指揮を執ることができませんでした。しかし、日頃から防災訓練や講習会を繰り返し行っていたこともあり、マンション内にいた住民で訓練どおりに対処することができたそうです。

●高齢者の見守りにもつながる交流

同マンションには、自治会の付置機関という位置づけで、子ども会と長寿会が置かれています。長寿会には現在、正会員(高齢者)63人と賛助会員(プレ高齢者を含む若年層)21人が加入しており、健康体操、カラオケ、健康麻雀、いきいきサロン(共用部のパーティールームで鍋料理や大皿料理を皆で作り会食する)といったサークルが定期的に催されています。

長寿会は単に趣味活動を行うだけの存在ではありません。サークルで顔を合わせるメンバーの誰かが、ある日何の連絡もなく参加していないとなれば、「○○さんはどうしたのだろう?大丈夫だろうか?」といった声が自然にあがるそうです。日頃の交流が高齢者の見守りや安否確認といった機能も兼ねているのです。