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  • 2011年秋号

3.11 以降のマンション管理をいかに考えるか

工学院大学建築学部建築学科教授 遠藤和義

◆マンション管理に戦略性を

分譲マンションは、居住者である区分所有者にとってはもちろん、社会全体にとっても、安全で健康的な生活を実現するための重要な資産である。一方、ストック形成に伴うマンション市場の成熟は、その管理の状態が、中古市場等における評価に大きな影響を与えるようになっている。3.11を踏まえ、既にいくつかの調査は、マンション購入者の物件選択にかかわる意識の変化を伝えている。

居住者は自らの資産、社会の資産を守る責任を自覚しなければならない。
もちろん行政やマンション管理にかかわるプロフェッショナルも、マンションのスラム化や限界マンションといわれるような状況を生み出してはならない。

望ましいのは、図3に示されるような適切な長期修繕計画が管理組合によって立てられ、それに基づいて蓄えられた長期修繕積立金を原資として、適切な時期に適切な内容の修繕や改修が実行されることである。 実態は、劣化の可能性のある築後年数の経過したマンションほど、こうした長期修繕計画を持たないものがあるという。

図3 計画修繕と改修の重要性

国土交通省もこうした状況に対応して、「長期修繕計画作成ガイドライン」や「長期修繕計画標準様式」を策定し、マンション管理の標準を示している。また、それらに準拠し、管理組合が意思決定をするうえで参考となる出版物(例えば、参考文献4、5)もそろいつつある。管理組合にとっては心強いマンション管理の専門家も多数控えている。

3・11以降のマンションの管理は、現状の生活空間としての価値、管理における性能や資産価値の維持・向上の戦略性、その実現に向けて蓄えられた修繕積立金という、意味ある「必然」の一致したマネジメントによって、様々なリスクに対応していくべきであると考える。

【参考文献】
1.(社)高層住宅管理業協会、東日本大震災 被災状況調査報告 平成23年4月21日、2011年
http://www.kanrikyo.or.jp/news/data/hisaihoukoku110519.pdf
2.国土交通省、マンション耐震化マニュアル 平成19年6月、2007 年
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/07/070622_.html
3.国土交通省、改修によるマンション再生手法に関するマニュアル 平成16年6月、2004年
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha04/07/070603_.html
4.一般社団法人 マンションリフォーム技術協会編著、(社)日本建築積算協会編集協力、マンション改修見積、(財)建設物価調査会、2010年
5.「マンション改修価格情報」編集委員会、マンション改修価格情報、(財)建設物価調査会、2011年
2、4ページに掲載している写真は(財)消防科学総合センターより抜粋しています。
Profile
遠藤 和義(Endo Kazuyoshi)
■学歴
1983年 芝浦工業大学建築工学科卒業
1985年 東京大学大学院工学系研究科建築学専門課程修士課程修了、1987年同博士課程中退
2010年 筑波大学大学院ビジネス科学研究科経営システム科学専攻修了、博士(工学)、修士(経営学)
■職歴
1987年 京都大学工学部助手
1993年 工学院大学工学部講師、1995 年同助教授を経て、2003年より現職
他に早稲田大学大学院非常勤講師、九州大学大学院非常勤講師
■所属学会等
日本建築学会、土木学会他
(財)マンション管理センター「長期修繕計画のあり方検討委員会」、(財)物価調査会「マンション改修
工事費マクロデータ調査委員会」、(社)高層住宅管理業協会「マンション長寿命化協議会」委員