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  • 2011年秋号

3.11 以降のマンション管理をいかに考えるか

工学院大学建築学部建築学科教授 遠藤和義

◆ 進化している耐震改修技術

図1 耐震補強技術の目的と工法の種類 耐震改修促進法の後押しもあって、この15年間、わが国建設業界は耐震改修技術の開発に注力してきた。耐震診断同様、マンションの耐震改修に対しても全国の市区町村の20.1%が補助制度を持っている。

耐震診断の結果に応じて、図1、図2にあるように、強度の向上、靭性能(ねばり強さ)の向上、構造上のバランスの改善、地震力の低減等を実現する多様な補強工法が開発されている。

工法が多様化しているのは、耐震性能の改善に加えて、居住者や管理組合にとって関心の高い、「コスト」「工期」「建築・設備との整合性(補強による空間への影響)」「居ながら施工性(搬入や工事中の振動・騒音、粉ふんじん塵 など影響)」等に対応する必要からである。


図1 耐震補強技術の目的と工法の種類 例えば、居住者に高齢単身者が多く、引っ越しなど一時的な転居の負担が大きいという事情があれば、管理組合はそれを最優先して工法を選べばよい。こうした配慮が耐震改修の実現に向けた居住者の合意を得るうえで重要となるのはいうまでもない。

耐震性能の劣化を抑える

現在の地震予知は、すでに紹介したように、今回のような巨大地震でも30年というタイムスパンで発生確率を求めることしかできない。

30年間、常に準備万端身構えて、何時起こるか分からないそれに立ち向かうのは実際難しい。その間、新耐震基準の物件であっても、現在のIs値が0.6以上あっても、時間の経過による避けがたい劣化も考慮しなければならない。国土交通省は2002年時点で、分譲マンションの平均寿命を46年と推定し、それを延伸する施策を展開してきた。自民党政権の2007年には、それまでの新築持家中心の施策をストック重視へと大転換し、いわゆる「200年住宅」も提言された。

こうしたライフサイクルの延伸は、その間に躯体強度の劣化のみならず、美観や設備の劣化、陳腐化等も生じさせる。国交省のマニュアルから引いた図3を見ると、それらに対応しているうちに、耐震基準が再び改正されたり、社会の要求水準が高まったりして、耐震改修も含む大規模修繕がなければ、性能が陳腐化し資産価値も低下することを示している。

阪神・淡路大震災、3.11の経験を踏まえ、分譲マンションストックを維持するためには、耐震改修を特異な問題と考えるのではなく、分譲マンションのライフサイクルに組み込まれたルーティンともはや考えるべきことを示している。