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  • 2011年秋号

3.11 以降のマンション管理をいかに考えるか

工学院大学建築学部建築学科教授 遠藤和義

◆分譲マンションの倒壊はなかった

今回の震災による、建物全体の被害の実態については、国や自治体、日本建築学会等による最終的な調査結果を待たねばならない。分譲マンションについては、本誌を発行している㈳高層住宅管理業協会によって、同協会の会員企業が管理業務を受託しているマンションの被災状況の調査結果(参考文献1参照)が4月21日に発表されている。調査結果によると、『東北6県の1642棟(全マンションに占める割合は約90%)のうち、「倒壊」や「大破」はゼロで、構造体の補強や修理が必要な「中破」は26棟(1.6%)、構造耐力に支障はないが補修工事が必要な「小破」は283棟(17.2%)、外見上ほとんど損傷がない「軽微」が1024棟(62.4%)、「被害なし」が309棟(18.8%)だった』とある。

1981年(昭和56年)以降に建てられた建物に適用されている「新耐震基準」は、震度5強程度では損傷を生じず、震度6強から震度7程度であっても、一部に損傷は発生するものの人命に危害を及ぼす倒壊等の被害を生じないことを目標としている。調査の結果は、最大震度7を観測した今回の巨大地震においても、現状の耐震基準が有効なことを裏付けている。

◆旧耐震基準マンションはまず耐震診断を

前述の結果には、1981年以前に建設された82棟も含まれているが、それらの耐震改修の履歴については不明である。㈱東京カンテイの調査によれば、阪神・淡路大震災では、対象5261棟のうち83棟が大破、そのうちの73棟が1981年以前に建設されたものであったという。地震の性質が異なるので、単純な比較はできないが、阪神・淡路大震災の教訓は、今後も生かさねばならない。まず、当該マンションが1981年以前に建設され、まだ耐震診断や耐震改修が行われていないのであれば、管理組合は早急に耐震診断を受けることを決断すべきである。

耐震診断とは、既存建物の構造的強度を調べ、想定される地震に対する耐震性や受ける被害の程度を判断するものである。耐震診断のアウトプットの一つが、耐震指標 (Seismic Index of Structure)値である。少々専門的になるが、 値は次の式で求める。

Is=Eo(保有性能基本指標)×Sd(形状指標)×T(経年指標)Eo(保有性能基本指標)とは、建物が保有している基本的な耐震性能を表す指標で、具体的にはC(建物の強度を表す指標)×F(建物の粘り強さを表す指標)で求める。
Sd(形状指標)とは、建物の形状や壁の配置バランスを表す指標である。T(経年指標)とは、建物の経年劣化を表す指標である。

東日本大震災・陸前富士山駅の被害の様子 阪神・淡路大震災を教訓に1995年に制定された耐震改修促進法では、Is値が0.6以下の建物については耐震補強が必要であるとしている。言い換えると、Is値が0.6以上であれば、その建物は「必要な耐震強度に対し100%の強度を持っている」と判断されたことになる。なお、2010年4月1日現在で、全国の市区町村の27.1%がマンションの耐震診断に対する補助制度を整備している。なお、制度の内容は、マンションの所在する市区町村によって異なるので確認が必要である。