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  • 2010年秋号

地震大国ニッポン 管理組合のための防災知識

株式会社 危機管理教育研究所 代表 国崎信江

◆入居者名簿の作成

安否確認には入居者名簿の作成が必要になります。管理組合の運営において、総会の開催や管理費等の請求などのための組合員名簿や、自然災害等緊急時の連絡のために入居者名簿等を作成することが一般的です。居住者の家族構成・緊急連絡先などの情報が記載されていれば、要配慮者の支援、閉じ込められた人の救出、居住者の安否確認等の行動が迅速かつ効率的に実施できます。

個人情報保護法の面で、情報流出などの不安から情報提供に否定的な居住者もいるかもしれません。しかし、マンションの管理規約が標準管理規約に準拠していれば、「組合員名簿等」の個人情報は管理規約の定めに従い理事長の責任で作成・保管し、閲覧できることになっています。しかも、「管理組合のみで管理する場合、個人情報保護法は適用されない」ことや「管理会社で管理する場合でも、合計で5千件以内のデータベースなら法対象外」となっているので、個人情報保護法のしばりはありません。 とはいえ、いくら個人情報保護法に該当しないとしても、個人情報保護やプライバシー保護の認識が高まっていますから、名簿作成の前に、名簿を管理する責任者を選ぶ、漏洩(ろうえい)や紛失を防ぐ保管場所・保管方法を決める、閲覧の方法を決めるなどの取り扱いのルールを管理組合で決めて、流出の不安を取り除くように努めましょう。

◆日頃の交流が大きな力に

マンション防災を継続・発展させるには、思い切った改革と柔軟な発想の展開が必要です。1つに、マンションの防災エキスパート(専任者・組織)を育てることと、2つめに、楽しい、有意義と感じる活動にすることです。

任期は長くて2年という管理組合の運営がなされている場合、防災のリーダーやエキスパートが育ちにくい環境にあります。防災の知識を得て戦略的に対策を企画し、実践していくにはあまりに期間が短いため、災害時にマンション全体が抱える問題が見えず、同じ訓練の繰り返しになり、セミナーや避難訓練を企画しても人が集まらないという事態になってしまいます。知識や経験の積み重ねの中で、実践的な対策を練ることができる防災エキスパート(専任者・組織)を育てましょう。

防災を意識するあまり、防災のことばかりという活動では長続きはしません。防災では、人を身近に感じられるコミュニティ、つまり日頃の交流こそ災害時に大きな力を発揮します。「防災」というくくりにとらわれず、楽しい、有意義だ、と感じるイベントを通して多くの居住者と顔見知りになる機会を創出することこそが大切です。参加を呼び掛けたときにいつでも集まってくれる関係が築かれたなら、防災のみならず、防犯、ごみ処理、駐(車)輪場など、マンションが抱えるあらゆる問題の速やかな解決に資するでしょう。

マンションの災害対応・復旧では、個人の利害に絡むことや費用捻出のための各世帯の状況により、合意形成が難しくなる事案が出てきます。説明会と個別の面談を実施していくなかで、日頃の居住者間において交流があれば、より良い復旧に向けた理解や協力を得て、意見を取りまとめていくことができるでしょう。マンション防災はぜひ「近くに人がいる」ことを力にしてください。

Profile
国崎 信江(Nobue Kunizaki)
株式会社 危機管理教育研究所 代表
防災対策、防犯対策等の安全に関する様々な情報提供を行う危機管理教育研究所の代表を務める。
著書は『サバイバルブック—大地震発生その時どうする?』(日本経済新聞出版社)など多数。

▼危機管理研究所ホームページアドレス
http://www.kunizakinobue.com