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  • 2012年春号

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リノベーションとは単なる大規模修繕に留まらず、時代の変化に伴い失った価値を甦よみがえらせて、新しい価値を生み出すことに挑戦するプロセスでもあります。クリエイティブな感性を伴った共用部のリノベーションを通して、新築でも中古でもない第3の選択肢を――『一棟丸ごとリノベーション』をご紹介しながら、解説していきましょう。

ご承知のとおり、つい先ごろまでの約10年間、首都圏における新築マンションは年間約8万戸強供給され続け、その間の商品企画差別化時代を通じて、マンションの外観やエントランスホールといった共用部の機能やデザインは、飛躍的に向上し、それに伴って、ユーザーの目線も確実に向上してまいりました。

一方、今まで当社が分譲する『一棟丸ごとリノベーション分譲マンション』は、もともと企業の社宅や賃貸マンションとして企画されたものであるため、これらの建物は建設当時、比較的コンサバティブに、言い換えるならば、経済的に質素に計画されていることが多く、オートロック等の設備・機能面はもちろん、あるいは設しつらえといった意匠・デザイン面でも見劣りすることが多いのが現状です。

そこで、【バリューアップ】と称して、エントランスホールや外構、共用部に、単なる模様替えでない機能・価値を向上させるリノベーションを実施し、全体的な商品価値を高める工夫をしてきました。また、省資源、省エネの観点から、太陽光発電やエコにかかる商品企画を上記に加えた例もあります。これらは、建物診断に基づく大規模修繕が実施され不安が払拭されることも手伝って、周辺の中古マンションに比べ1~2割高い価格で評価を得ています。

◆資産価値向上のためのバリューアップ術

ユーザーの価値観・嗜好性の変化や地球環境意識の高まり、国策として進められる既存住宅流通活性化により、今後ますます中古マンションが見直される中、既存マンション共用部の管理状況・修繕状況、雰囲気や機能といったものは重視され、今まで以上にダイレクトに資産価値として顕在化していく時代を迎えています。大規模修繕と同時に、機能価値を向上させ、そのバリューを更新していくことを考えることは、とても重要であると考えています。

◆事例1 エントランスのデザインと機能をUP

配置計画上、敷地中央部にエントランスが設けられていた既存建物は、質素につくられた社宅ということもあり、どこにエントランスがあるのかさえ分かりづらい状況でした。しかしそれは導入路として適切な設えを施せば、豊かな空間になります。

このプロジェクトでは、植栽を配したデザインウォールを付け加えることで、玄関周りのデザイン価値を高め、併せてオートロック、集合郵便受けの改修、宅配ボックスの設置等の機能面の充実を図っています。風除室内部に関しても、タイルを張り替え、サイン等を更新。入居後には、植栽ワークショップを開催し、区分所有者が親しみを持ってグリーンを楽しむリノベーションマンションに生まれ変わりました。

さらに本プロジェクトは、アタッチメント式ペアガラスの採用、共用部照明のLEDへの変更を積極的に行い、国土交通省が実施した「省エネ改修推進事業」に補助採択されました。

また、日本建築学会「建築のLCA指針」を用いたLCCO2の新築(スクラップ&ビルド)との比較調査を行った結果、建て替えをするのに比べて70・7%のCO2削減を行うことができたと同時に、省エネ改修によりリノベーション後の全住戸CO2排出量23・8%削減という効果を得ることができました。

リノベーションは、建物の長寿命化だけでなく、環境負荷の低減にも寄与することが可能になります。

◆事例2 共用部分を増築してコミュニティールームに

こちらも事例1と同様に元の用途は社宅です。エントランスホールは全くありませんでした。そこで、平成14年の建築基準法改正で共用部廊下などが容積算入されなくなった部分等の残容積を活用して、新たに平屋のエントランス棟を増築、エントランスとコミュニティルームとし、屋上はウッドデッキを敷き込み、ルーフテラスを設けました。もちろんこの場合、増築の確認申請が必要になり手続きは煩雑になります。

コミュニティルームのライブラリーでは、絵本やおもちゃが常備されていて、子どもの遊び場になっていたり、理事会や女子会、お父さん会なども企画されたりしています。住民の方々のコミュニティ空間としてとても有効に活用されています。また実例1と同様に、省エネ回収を行ったほか、屋上を利用して太陽光発電システムを導入し、更に環境にやさしい建物を目指しました。

◆売電とCO2排出量の削減によるクレジット化で管理組合に還元

太陽光発電システムを既存建物に載せるためには、荷重、建築基準法、長期修繕計画や管理規約の整備等、様々な課題がありましたが、それらを一つひとつクリアし、5系統の発電モジュールを設置しました。個別売電が可能なシステムを最上階4戸に導入したほか、共用部にも導入し、売電収益は管理組合の収入となっています。

太陽光発電で得た電力の自家消費分と省エネ性が高いLED照明で削減したCO2排出量を、クレジット化して売却し、マンション管理組合に還元する仕組みも、併せて採用しました。

また、「電力使用量見える化システム」を導入し、楽しみながら環境意識を高める工夫も行っています。

さらに、自転車の空気入れやBBQセットなど「1世帯に1つ必要はないけれど、あると便利なもの」をシェアするシェアリング倉庫や、周辺住民も利用できるオープン型のカーシェアリング導入を行い、トータルで環境にやさしい暮らしを提案しました。

Profile
株式会社リビタ 建築ディレクション部長
五味 陽一 (Gomi Yoichi)

1954年、東京生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒
複数のディベロッパーで分譲マンションの企画開発を、また商品企画、デザイン・ブランディング等を担当する。2010年より現職にて、リノベーション事業の企画・建築に携わる。