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  • 2011年秋号

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「終の棲家(ついのすみか)」として、居住者に長く愛されるマンションとなるためには、修繕工事を有効的に活用し、マンション建物の価値を上げていくことが大切になります。今回は「ランドスケープまで含めた大規模修繕~トータルコーディネート~」「記憶に残るものづくり~オーダーメイド~」「みんなでつくる~ワークショップ~」の3つをキーワードに、「長期間居住したくなるマンション」を解説してまいります。

~50年先、100年先も住み続けたいと思うマンション~

日本の人口は2025年には1億2000万人を下回るといわれており、長期的な人口減少が予想されています。そのような社会背景の中、国民の10人に1人が居住している分譲マンションも、将来的には多くの空室の発生や、十分な修繕が行えず著しく劣化した状態の危険なマンションの発生などが危惧されており、数十年後には「コミュニティが醸成し活気のあるマンション」と「老朽化が進行し、空室が目立つスラム化マンション」とに二極化が進んでいくのではないかと考えられます。

このような中、人々の終の棲家(ついのすみか)として、居住者に長く親しみ愛される分譲マンションとなるためには、12年程度に1回実施される大規模修繕工事を有効的に活用し、50年先、100年先も住み続けたいと思えるマンションへと改修していく必要があります。

それらを進めていくためのキーワードとして、
「①ランドスケープまで含めた大規模修繕~トータルコーディネート~」
「②記憶に残るものづくり~オーダーメイド~」
「③みんなでつくる~ワークショップ~」が挙げられます。

①ランドスケープまで含めた大規模修繕~トータルコーディネート~

これまでの大規模修繕工事の多くは、建築物だけのリニューアルを行っている事例が多く、ランドスケープと建築を一体的に考えている事例は多くありませんでした。しかし、より魅力的な大規模修繕を行うためには、そのマンションのおかれている自然環境、地域文化、周辺景観との調和などを考慮し、ランドスケープと建築が一体となった大規模修繕工事をすすめていく必要があります。

周辺と調和する色彩計画の検討、植栽計画、舗装・エクステリア計画、サイン施設計画、ライティング計画など、トータルな視点に基づいた計画が必要です。その結果、居住者に長く愛されるマンションになるとともに、周辺地域からも愛されるマンションになっていくことが期待されます。

~パリにたたずむマンションをコンセプトに~~

②記憶に残るものづくり~オーダーメイド~

また、大規模修繕工事の中に、居住者の人々が「これは自分たちがつくった、考えた計画だ」と思える、記憶に残るものづくりを組み込むことも、長く親しみ愛される分譲マンションに導くための手段であります。そのような意味で、私たちはオーダーメイドの工事を進めております。マンションのエントランスサイン・階数表示サインなど既製品は使用せず、みんなで工夫し一手間加えた、このマンションにしかないオリジナルのサインを居住者のみなさまと一緒にデザインし創りあげています。

マンション居住者にとって、大規模修繕工事は12年に1回にやってくるある意味お祭り的なものであります。この機会を利用し、マンション内のコミュニティを活性化させるために修繕委員会を活用すべきです。私たちは居住者のみなさまに参加してもらい、ワークショップ形式で一緒に計画内容を創りあげていくという方法を採用しております。12年に1回の機会に、改めてマンションの劣化状況を見つめ直し、意見交換し、工事内容を決定していく過程において、マンション内のコミュニティが向上していきます。

③みんなでつくる~ワークショップ~

次に紹介する事例は、ここまでに述べた取り組みを実践しながら、工事を完成させた事例になります。築20年が経過している案件で、周辺に大学が立地していることから、若い世代の入居が期待されるマンションにリニューアルする必要がありました。

改修にあたっては、修繕委員のメンバーから発案された「紫」「パリのような」「モダンな」というキーワードをもとに、私達がそれらを具現化するため約20案にも及ぶカラープランの作成など各種提案サポートをしながら完成に至りました。外壁は、パリのリノベーションの事例などを参考にしながら、紫色のアクセントを使用して、モダンなデザインにリニューアルしました。また、ベランダに設置されていた緑色のハトよけネットは、黒い色のネットに変更し、全くネットが目立たない外観となりました。昔風な印象を与えていたエントランスサインも、ステンレスのパーマネント仕上げの切文字としモダンな雰囲気としました。

みんなで創意工夫を行った大規模修繕工事を12年ごとに積み重ねていくことにより、今後新たに建設されていく新築のマンションには決して真似できない、歴史がつくりだす趣や味わいがマンションに加わり、『50年先、100年先も住み続けたいと思われるようなマンション』に生まれ変わります。

Profile
株式会社ウイッツコミュニティ 修繕工事部部長
成瀬 敏一 (Naruse toshikazu)

1976年生まれ
(株)東京ランドスケープ研究所にて公園、庭園、駅前広場などランドスケープ空間の設計・デザインに携わる。
建築とランドスケープが一体化した大規模修繕工事を目指し取り組んでいる。
受賞作品には、「相模大野コリドー等グレードアップ事業 最優秀賞」、「西門買物公園道路再整備事業 最優秀賞」など