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  • 2011年夏号

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マンションの利用価値を維持し続けていくには、時間の経過とともに発生する建物の劣化や、意匠の陳腐化を改修していくことが重要になります。今回はマンション改修(リフォーム)のポイントである、エントランス、バリアフリー化、建物外観の意匠変更を例に、改修と管理組合員との関係性も解説していきます。

◆マンション価値維持のために不可欠な意匠改修

「管理組合」という、ひとつの共同体のハードであるマンション。建物に時代のニーズを反映させ、利用価値を維持し続けていく。このための工事がマンションの改修と考えます。
維持し続けるためには建物の劣化を修繕するだけではなく、時間の経過とともに陳腐化した意匠を改修することは、マンションの利用価値を維持していくだけではなく、組合員の共同体としてのハードであることの意識を保持していく上で、必要不可欠なことと考えます。

今日、分譲マンションの居住者は約1400万人と推計され、人口の1割を超え年々着実に増加しています。このことは多くの人々が『終の棲家(ついのすみか)』として、マンションでの生活が営まれていることを示しています。

マンションをきちんとした保全のもと利用価値を維持していくことは、社会的にも重要な課題となっています。

マンションの維持保全を目的とする工事は、いわゆる、大規模修繕工事が10年超の周期で行われています。これは経年による劣化箇所を修繕し、新築時により近い機能に戻す工事です。この修繕工事とは別にその時代の生活環境を取り込み、建物の利用価値を高める改修工事を定期的に行う必要があります。

◆改修工事のポイント バリアフリー化とエントランス改修

利用価値を高める改修工事のひとつにエントランスの改修工事があります。一般的には2回目の大規模修繕工事時に改修の検討を行うことが多いようです。新築時から20年を経過し、経年による劣化と共に意匠性の陳腐化も顕著になります。

この事が2回目の大規模修繕工事時期と重なり、改修工事のポイントのひとつと考えられます。もうひとつの改修のポイントは、バリアフリー化です。マンションの販売時のターゲットとした30~40代の組合員も加齢によりバリアフリー化が身近になるのもこの時期です。

◆改修工事成功のキーワード マンション住民との「合意形成」

これらの改修工事を実施するにあたり、最も考慮すべき点は何でしょうか?
この質問に対する回答は、管理組合での「合意形成」を第一に挙げます。意匠性、機能性の改善は当たり前ですが、マンションにおいては改修工事を成功させるキーワードは「合意形成」です。

マンションの改修工事は、ご存知のとおり修繕積立金による組合員の承認のもとに行われる工事です。どんなに優れたデザイン設計でもこの合意形成なくして、工事の成功は成し得ません。組合員の合意を得ることで、工事の50%は成功です。残りの50%が実質的な設計部分です。

そのために日頃からの、組合員への要望の聴き取りを含め、広報活動は非常に重要な要素になります。
また、マンションの顔であるエントランス改修の設計時に考慮することは、飽きのこない意匠、頻繁なメンテナンスを必要としない普遍的な素材の選択です。マンションに住むすべての人が利用する空間でもあり、ある程度の八方美人的な要素を取り入れることも必要になります。

①エントランス改修
こちらはステンレスの親子扉の連続からなるゆったりとした開放的な空間でしたが、20年の経過とともに陳腐化が進み2回目の大規模修繕工事時にエントランスの改修工事を行いました。ステンレスの扉枠は既存のまま残し、扉自体も既存を使用して意匠を変えました。内壁は大理石を張り、光源には変化をもたせて間接照明を取り入れています。集合郵便受けも大型サイズに交換しました。

②バリアフリー化
こちらは、1回目の大規模修繕工事から5年後に建物全体でのバリアフリー化を行った一部です。エントランスの扉を両開きから車いすでの通行が容易な引き戸に変え、段差箇所にスロープを新設しました。組合員からの要望によりマンションの利用価値を高めた一例です。


③外観改修
こちらのマンションは交通量の多い道路に面し、タイル面の汚損が目立つことから、エントランスの改修時に、アイボリー系のタイルを一部、薄切りの石材に。同時に玄関扉と明かりとりの格子扉をアルミから木目調の建具に変更しました。高級感と清潔感を意識し、改修した例です。

人の顔がそれぞれ異なるように、マンションの数と同じ数の個性があります。
共同体の個性を一つひとつ読み取り、取り組んでいくことがハードであるところのマンションの改修工事を成功させる秘訣です。

Profile
株式会社改修設計 代表取締役
伊藤 佳比古 (Ito Yoshihiko)
1961年 埼玉県生まれ 日本建築仕上学会会員
(財)東京都防災・建築まちづくりセンター 分譲マンション建替え・改修アドバイザー