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  • 2011年冬号

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時間が経過し建物が古くなると、見た目の老朽化や設備の劣化や破損、耐震などの構造上の問題など、建物全体の価値を低くしてしまいます。マンションの共用部分である外観と、構造上の改修も合わせた総合リフォームについて、著者が提唱する『リファイン建築』をご紹介しながら、解説していきましょう。

◆リフォームが検討される3つの要因

建物の老朽化が進み、建て替えや再生が検討される時、その要因として3つのことがあげられます。

1つ目は、設備に関するトラブル。水道管から赤錆が出る、配水管が詰まり漏水をおこす、電気の容量が足りないなど、もともと建設時から抱えていた問題が時間の経過とともに、トラブルを起こしてくるものと、数年間のIT世界の発展に設備が対応できなくなったなどです。

2つ目が美観上の問題。「外観が古くなり汚れが目立ってきた」「エントランスなど、パブリックなスペースが新築に比べて見劣りする」「トイレが汚くなった」「クロスが汚れた」「床が古い」など内観の問題も含めた、見た目のトラブルです。商業施設や賃貸マンションのようなテナント事業として計画される建物は新築物件と比較されるので、これら2つの問題は、入居率の低下に直結します。

3つ目が構造上の問題。新耐震以前の建物は、基本的に現在の耐震基準に合わないので、ほとんどのものが耐震診断をすればアウトになるのは当たり前です。また、外資系ファンドから融資を受ける際に必要とされるコンプライアンスが要求される場合は、耐震性も加味して所有者が判断することになります。以上のような3つのことが起こり、スクラップアンドビルドにするか、美観だけやり直すか、設備機器をどうするかという話になっていきます。

◆耐震リフォームへの改善要求?

現在、日本で行われる改修や修繕は、美観上の問題をまず解決することが主流で、それを細かく分類すればリフォームやリニューアル、リノベーションといったものの枠に当てはまります。例えば、室内設備のトラブルはリノベーションでも修繕を行いますが、建物全体の共同管理下にある共用部分についてはかなり曖昧なものとなっていると思われます。また、耐震に関することは、リフォームやリノベーションでは、ほとんど対策がなされていないのが現状であり、今後、このことはコンプライアンスの観点から、今の状況が許容され続けることは考えにくいのではないでしょうか。

一方、特に学校においては耐震改修が行われていますが、これは耐震補強のみを行うもので設備に関することや、美観上の問題はそのままになっています。耐震補強には鉄骨ブレースが使われることが多く、かえって美観上、そして機能上マイナスとなっているケースが見受けられ、もっと適切な方法があるのではないかと思われます。すべてこのような工事は、あと何年、その建物が使われるかということに対してあまり注意が払われておらず、それを総合的に考えることが本格的に議論されてもよい時期にきているのではないでしょうか。耐震補強にしても、莫大な税金がつぎ込まれていますし、個人所有のビルであっても、相当額な投資になり、建物の長期的利用からみれば物足りなさを感じるのは私だけではないと思います。

私が提唱する『リファイン建築』はこれらをすべて行い、美観上、設備上、耐震上の問題すべてをクリアにして、再生した建物が長時間にわたり使われることを考え、実践しています。

構造上の問題を挙げれば、コンクリートの劣化に対する対策を、耐震補強とともに行うことが必要ではないでしょうか。私は、建物そのものをガラスや板金などですっぽりと包み、コンクリートの保護とともに意匠の一新を行っています。このことを30年毎に2回繰り返せば、100年建築として利用することができ、また、その工事の際に、設備に関する問題や内部の意匠に関する対策も行えば、何ら新築と損色のない建物として利用することができます。

◆耐震リフォームへの改善要求?

『リファイン建築』を始めて23年になりますが、耐震強度偽装事件以来、状況は一変し、この数年は、施工中の記録やまた安全性をどう担保するかということに着目して、取り組んできました。この5年間程の最新の『リファイン建築』では、改めて確認申請を提出することをやっています。完成後には検査済証を取得します。法律的には、これ以上に建築基準適合を証明するものはなく、新築と同等の権利を得ることになります。これが認められないと言われれば、別の法整備をしなければならなくなり、つまり『リファイン建築』とは、『すべての面で新築と同じとする手法』であります。

ある銀行で講演した時に、講演が終わり「質問はありますか」と尋ねると、ただ全員黙ったままなので「じゃあこれで融資をしてくれますね」と聞き返すとそこで質問が出ました。

「これは金融の問題であり、建築の問題ではありません。この問題を解決するためには、金融庁と協議をしなければならない」と言われ、僕は絶句してしまいました。

彼らは、これらを持ち帰り、社内の規定を見直せば、確認申請を提出し検査済証を得た建物については、「もしかしたら融資ができるのではないか」と考えたらしく、現在、この協議を行いながら、一歩、二歩と歩みを進める努力をしています。これがうまくいけば、新しい都市と建築のビジョンが見えてくるのではないでしょうか。



Profile
青木 茂(Shigeru Aoki)
首都大学東京戦略研究センター 教授
株式会社青木茂建築工房 主宰
博士(東京大学工学)
1948年大分県生まれ。 老朽化した建物の躯体を活かしたうえで構造補強をし、用途に沿ったデザインに一新してその建物を再生する建築技 術「リファイン建築」を提唱し、取り組んでいる。
著書に『建築再生へ』『再生建築』『団地をリファインしよ う。』など
受賞作品には、日本建築学会賞・業績賞(2001)BELCA 賞 (2001)JIA 環境建築賞(2000)エコビルド賞(2002)グッ ドデザイン賞特別賞(1999、2010)グッドデザイン賞 (1999、2005、2008、2010)福岡市都市景観賞を連続 受賞 (2005、2006)JFMA賞(2010)など他多数