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  • 2023.04.03掲載

DIY(Do it yourself)でリフォームして暮らす

横浜市立大学国際教養学部教授 齊藤広子

 誰だ?誰だ? ガンガンドンドンうるさいな……、もういい加減にしてくれ!!
 最近、DIYでリフォームすることが流行っていると聞くけれど、それにしてもうるさいな。コロナ禍を経験し、DIYをする人が増えたらしい。 え‼?? こんなに若い人が住んでいるんだ、あのうるさい部屋。アーティストさんかな、おしゃれな部屋だな。わが家と同じ部屋とは思えない。僕もDIYやってみようかな♪♪


●DIY型賃貸借

 冒頭の若い人は、どうもマンションの一室を借りて住む人のようです。借り手が自らDIYでリフォームして住むことが増えてきています。「DIY型賃貸借」といいます。では、普通の賃貸借の場合と何がどう違うのでしょうか。お部屋を借りたことのある方は覚えがあるかもしれませんが、契約の際に、「退去するときは入ったときの状態(原状)に戻してくださいね」といわれませんでしたか?通常、借りた部屋を退去する際には元の状態に戻す必要があります。これを原状回復といいます。
 ですから、自分好みの壁の色にした、大きな棚を壁に取り付けた、キッチンを取り換えたなどといった場合には、通常は原状に戻すことになります。となると、「面倒なのでリフォームは控えようかな」という気にもなりますよね。貸す側も、「どんなリフォームが人気なのか」「せっかくリフォームにお金をかけても誰も借りてくれない。出資ばかりが増える」というのでは、不安が先に立ってリフォームに二の足を踏んでしまうことにもなりかねません。そのため、古いマンションを買う人もなく、借りてくれる人もいなくなってしまいます。
 そこで、借り手が自らDIYでリフォームし、家主に許可を得たリフォームであれば、「退去時はそのままでもいいですよ」、「素敵なリフォームであれば、家賃を返金しますよ」といった取り組みもあるようです。そんな事例を見てみましょう。

●マンションのDIY型賃貸借【事例1】

 築50年を超え、エレベーターが無く、高齢者には暮らしづらくなっているマンションで、DIY型賃貸借によって若い人の入居が促進されている事例です。
 お部屋を訪ねてみました。居住者が自分で壁を塗り、壁一面に棚を作っています。食器棚と作業カウンターも作り、コロナ禍で自宅でのテレワークが始まった際には、仕事用資料の棚を増設し、気分を変えるためにリビングの壁をガラッと明るい色に変えたそうです。DIYができることで、より軽やかに住むことができているとおっしゃっていました。入居前の2週間で一通りのリフォームをDIYで済ませたそうで、費用は15万円程度だったそうです。
 この住戸の大家さんに、どうしてDIY型賃貸借を始めたのかを伺いました。
 高経年化によって空き家の増加やコミュニティの担い手不足等の課題を抱えていることから、空き家を活用し若年層の入居を促すことで、これらの課題に対応していければと思ったからだそうです。また、20~30代の住まいに対するニーズとして、DIYや自分で部屋をカスタマイズしたいという割合が他の年代よりも高いこと、DIY等自分の暮らしをカスタマイズしたいというマインドの方は、高経年の団地へも良い影響を与えてくれるのでは、という期待もあったそうです。
 こちらのマンションでは、トラブル予防のために、あらかじめDIYが可能な範囲と方法を図示した「DIYの手引き」を渡し、その範囲内でのDIYであれば、退去時の原状回復が免除されます。入居の際には、掲示板で管理会社から周辺の居住者の方へDIY作業で騒音等が発生する旨を周知し、入居者の方にも作業前の声掛けなど、積極的に周囲とコミュニケーションをとるよう促しています。この事例では、DIY型賃貸借を可能としたことで、マンション全体の入居者層の若返りが図られています。はじめは賃貸借で入居し、環境が気に入れば住戸を購入するということも考えられることから、こうした取り組みに管理組合が積極的に関与されていました。

●マンションのDIY型賃貸借【事例2】

 こちらも築約50年のマンションです。空き住戸がとても多く、駅からも遠いため、売買も賃貸も難しくなっていました。そこで、その空き住戸を借り上げた不動産会社がDIY可能な賃貸住宅として提供しています。いくつかのお部屋をのぞいてみましょう。
 1軒目は自宅兼アトリエとして利用しているお部屋です。もともとは2DKの間取りでしたが、壁などを全て撤去し、畳も全て剥がし、キッチンも交換しています。居住者の女性が1人で全てDIYでリフォームしました。約2か月かけて完成させ、かかった費用は30~40万円だったそうです。「自ら作る過程が楽しみなので、こうした物件にめぐりあえて本当によかったと感じています」とおっしゃっていて、ご自身のお住まいに強い愛着をお持ちのご様子でした。
 2軒目は自宅兼作業場として利用されているお部屋です。ほとんどの工事、内装などを居住者の男性がそこに住みながら、1人でDIYで手掛けたそうです。材料費は5~10万円程度で、電気工事は資格を持っている友人に頼んだのだとか。「広くて安くて原状回復が要らない、そんな物件を探していたので、遠方から転居してきました」とおっしゃっていました。DIY型賃貸借を楽しみ、自己実現や表現の機会となり、住まいに対して強い誇りもお持ちになっているようでした。
 このマンションには、DIY作業用の部屋も用意されています。工具の貸し出し、居住者同士のDIYの助け合いや情報共有の場があります。お互いの部屋を行き来して見学し合うなど、居住者間の交流もあります。大家である不動産会社は貸し出しの際、DIYに関するプランの企画書を提出してもらい、入居者を選定しています。DIYでリフォームをしている間の家賃は最大3か月分を無料にし、退去時に次の入居者がその住戸を評価した場合は、さらに最大3か月分の家賃を退去した賃借人に返金するのだそうです。