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  • 2019.04.01掲載

マンションでシェア暮らし

横浜市立大学国際総合科学部教授 齊藤広子

あれ?誰だろう。あそこは一人暮らしの高齢者のお宅だと思ったけれど、若い男性が入っていく。
遊びに来たのかな?
あれ?今日もいるよ。一緒に住んでいるの? それなら、ちょっと教えてほしいよね。
だって、なんだか心配だし……。
もし一緒に住んでいるのなら、マンションの一員として今度のイベントを手伝ってほしいけど、勝手な期待はいけないかな。


●マンションでシェア暮らし

 冒頭の事例は、異世代ホームシェアをはじめたお宅です。異世代ホームシェアとは、多世代ホームシェアとも呼ばれ、高齢者が1人や2人で住むには広い住宅に、若者が同居する暮らし方です。高齢者は住み続けたままで、一人暮らしや高齢者のみの暮らしの不安を小さくすることができます。
 アメリカでは1970年代後半からはじまり、ヨーロッパでも広がっています。例えば、フランスのパリでは、2003年の猛暑で独り暮らしの高齢者が亡くなったことを受け、こうした取り組みがはじまりました。高齢者や学生の孤独の解消、そして若者にとっては高い住居費への対応のためです。
 日本でも、NPOや大学などが関与して、いくつかの取り組みがあります。空いている部屋の有効活用にもなりますが、高齢者にとっても学生にとっても安心な暮らしが提供されます。

 暮らし方は様々です。例えば、フランスでの取り組み事例を見てみましょう。
 高齢者は60歳以上、若者は18歳以上の学生であること。そして、学生は高齢者とともに過ごす1週間の夜の食事の回数により、入居負担費用が変わります。
◆居住費
・無料で居住する場合は、週6回夕食時に在宅する。
・家賃を一部負担して居住する場合は、週1回程度夕食時に在宅する。
・さらに、夕食を1回もとらないパターンもあり、その場合は、家賃は相場より1~2割安かった
 り、あるいは約半額の場合もあります。
◆居住条件など
基本は授業が始まる9月から授業が終わる次の年の6月までの期間。学生がそこに住んで何を一緒にして、どんなお手伝いをするのかはあらかじめ決めておきます。食事を一緒にする以外に、雨戸を閉める、病院へ一緒にいく、薬を取りにいく、美術館へ一緒に行く、コンピューターの使い方を教える等があります。

 こうした取り組みは、日本でも広がってきています。
 いままで、高齢者の暮らしは、家族のみで助け合うこと、あるいは行政の支援や、近隣などの助けが前提となっていましたが、他人同士が助け合って住むというスタイルです。まさに、住まい、暮らしのシェアです。こんな取り組みが広がればよいと思います。
 他人同士がいきなり一緒に住むのは難しいことがたくさんあると思いますが、せっかくシェアをはじめたのならひと言ご近所に挨拶をして、必ず管理組合に届けるようにしましょう。大事なマンションの居住者ですから。そして、是非、マンションの一員としてコミュニティ活動にも参加してほしいですね。

●マンションはシェア暮らしの場

 マンションはそもそもシェア暮らしの場になっています。え?マンションは他の人と接しないで暮らせるから選んだのに……とおっしゃる方もいるかもしれませんが、1つの建物をみんなで使い、お互いに迷惑をかけないように思い合い暮らしているのです。廊下や階段、エレベーター、駐車場、駐輪場などもみんなで使いますが、パーティルーム、ゲストルーム、展望ラウンジ、キッズルーム、フィットネスジム、共同キッチン、AVルーム、スパや温泉、カフェなど、多様な施設がある場合もあります。これらもみんなで使います。つまりシェアですね。また、様々なサービスを受けることもできます。ゴミ収集後の清掃などの日常的なサービスをはじめ、マンションによっては宅配便やクリーニングの受付、タクシーの手配や花の宅配の仲介、年賀状などの印刷の受付、駅までのバスの運行などを行っているところもあります。もちろん、各家庭でこのようなサービスを提供する人を雇用できませんので、管理員やコンシェルジュの方をみんなでシェアすることになります。マンション暮らしの良さであり、魅力ですね。