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  • 2020.07.01掲載

緊急事態措置で総会や会議の仕方が変わる?

横浜市立大学国際教養学部教授 齊藤広子

●理事会の開催

 総会の延期や開催、その方法は、理事会で決めることになります。しかし、理事会が開催できないという事態もあり得ます。そこで、いくつかの方法を考えてみましょう。
 事前に十分、電話やメールで意見交換したうえで書面で合意確認をとり、事態が沈静化した後の理事会で追認をするという方法です。もう一つは、Web会議システムを使う方法です。これで、同時に意見の交換もできますし、管理会社の参加も可能です。しかし、現在、理事会を書面決議やWeb会議システムで実行するという管理規約を整備している管理組合は少ない(ほとんどない)でしょう。ですから、書面決議やWebで話し合いを行うことを、あらかじめ理事全員が承諾することが必要です。
 区分所有法第45条に電磁的方法による決議とありますが、これは総会での決議の際にメールなどでの意思表示をすることを想定したもので、ZoomなどWebでの会議を想定したものではありません。そこで、Web会議システムを使っても書面で決議しておくことがよいでしょう。さらに、書面決議や持ち回り決議など管理規約に規定のない議決方法によった場合、念のため後日開催された理事会で追認決議を経るようにすると、後々の決議に対する誤解も生まれないと思われます。
 また、これを機に本格的に、理事会をWebでできるようにWeb会議システム運用規則を整備し、これに基づいて理事会を進め、総会開催時に、追認になりますが、この規則を承認する体制を整えたマンションもあります。
 いずれにしても、Web会議システムや電子メールを用いての理事会を開催する場合、これらを用いることができない理事に対する質問の機会の確保、書面による意見の提出や議決権行使を認めるといった配慮や、通常の理事会と同様に理事会議事録の作成が必要となる点に留意しましょう。

○区分所有法
(書面又は電磁的方法による決議)
第四十五条 この法律又は規約により集会において決議をすべき場合において、区分所有者全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。ただし、電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令で定めるところによらなければならない。

○理事会のWeb会議システム運用規則導入事例

①暫定的な「Web会議システム運用規則」を策定
総会での追認を前提とするものの、追認が得られない可能性もあるため、理事会で決議できる事項を限定し、下記のような理事会運営規則を策定した。
Web会議システム運用規則
第1条(目的)
本規則は、2020年4月7日に発令された緊急事態宣言に伴い、本マンションの役員の健康を守るため、Web会議システムを用いた理事会を運営し、理事会活動を維持することを目的とする。
第2条(Web会議システム)
本規則によるWeb会議、電話会議等(以下「Web会議システム」という)は、次の通りとする。
一 パソコンやスマートフォン等を利用し、インターネット回線を通して通話を行うもの
二 会議参加者が一堂に会するのと同等の相互に十分な議論ができるもの
第3条(招集)
〇〇マンション管理規約(以下「本規約」という)第52条第4項にかかわらず、理事会の招集手続きは、少なくとも会議を開く日の2週間前までに、会議の日時、開催の方法がWeb会議であることを示して、理事及び監事に通知を発しなければならない。
第3条(理事会の会議及び議事)
本規約第53条第1項の出席は、Web会議システムに参加した役員を出席したものとみなす。
第4条(議決事項)
本規約第54条にかかわらず、Web会議システムによる理事会は、次の各号にかがける事項を決議する。
一 収支予算案、事業報告案、収支予算案及び事業計画案
二 本運営規則の制定、変更または廃止に関する案
三 長期修繕計画の作成または変更に関する案
四 その他総会提出議案
五 総会から付託された事項
六 災害、緊急事態宣言により、総会の開催が困難である場合における応急的な修繕工事の実施等
第5条(定めなき事項)
本規則に定めなき事項は、本規約、使用細則および総会で決議された事項に従うものとする。
付則
本規則は、2020年〇月〇日から、緊急事態宣言の発令が解除され、総会が開催されるまでの間、効力を有する。なお、総会により本規則、本規則により決議された事項が追認されなかった場合には、本規則、本規則により決議された事項は無効となることを確認する。
②運用規則について、役員の承認を得てから運用を開始・書面または電子メール等により、理事会運営規則について賛成する旨の合意を得る。なお、理事の合意については、理事会決議と同等の過半数以上の賛成、できれば全員の役員から取得しておくことが望ましいとする。
③総会で追認
総会の開催が可能となった段階で、理事会運用規則および理事会運用規則に基づく理事会決議内容について議案化し、総会の追認を受けることとする。

(資料:大和ライフネクスト株式会社 マンションみらい価値研究所提供)

●管理会社との委託契約の重要事項説明

 総会に先立って、管理会社との委託契約に関する重要事項説明を行っていた管理組合も多いのではないでしょうか。この重要事項説明とは、管理組合が管理会社に業務を委託する場合に、何をどのようにいくらで委託するのか等を、区分所有者全員に説明することです。原則対面で実施するものですが、新型コロナウイルス感染症への対応というやむを得ない事由がある場合、当面の間の取扱いとして、ITを活用した方法(Web会議システム等)により実施した重要事項説明等については、法令に規定する重要事項等の説明として取り扱う旨の通達が、国土交通省土地・建設産業局から各地方整備局、北海道開発局、沖縄総合事務所に発出されています(平常時においてこれを適用することが認められたものではありません)。

●最後に

 これを機に、新しい暮らし方に対応できるように、マンションの管理の方法を見直していきましょう。合理的で効率的なことを取り入れながらも、マンション管理に区分所有者全員の理解、参加、協力をより推進できる体制をみんなでつくっていきましょう。誰も置き去りにしないことが大事なことです。

※記事に掲載したWeb会議ツールの利用を推奨するものではありません。




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齊藤 広子 Profile
齊藤 広子
横浜市立大学国際教養学部不動産マネジメント論担当教授。工学博士、学術博士、不動産学博士。

専門は住まい学、住環境管理学、 居住のための不動産学。研究テーマは、マンションの管理、住宅地の住環境マネジメント。日本マンション学会研究奨励賞、都市住宅学会論文賞、日本不動産学会業績賞、日本不動産学会著作賞、不動産協会優秀著作奨励賞、日本建築学会賞、都市景観大賞優秀賞、グッドデザイン賞等受賞。
著書に『新・マンション管理の実務と法律』(共著・日本加除出版)、『不動産学部で学ぶマンション管理』(鹿島出版会)、『これから価値が上がる住宅地』(学芸出版社)、『初めて学ぶ不動産学』(市ヶ谷出版)、『住環境マネジメント〜住宅地の価値をつくる〜』(学芸出版社)など多数。