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弁護士 篠原みち子先生のマンション管理お役立ちコーナー

【相談事例 目次】

相談事例

管理費等を滞納していた区分所有者が自己破産をし、滞納管理費等について免責決定されました。
免責となった滞納管理費等は、もう回収することはできないのでしょうか。

篠原先生の回答

免責が確定すると、破産者は破産債権について責任を免れるため、免責となった管理費等については、当該破産者に請求できなくなります。ただし、破産債権は、破産手続開始決定前の原因に基づいて生じた債権(管理費等)に限られます。
では、その免責となった滞納管理費等は、回収できなくなるのかとのことですが、当該破産者には請求できないということであって、回収を断念しなければならないというわけではありません。
売買・競売等でその専有部分を買い受けた新区分所有者(特定承継人)に対しては、免責となった滞納管理費等も請求することができます。破産による免責の効果は、破産債権に関して破産者がその責任を免れるものであり、破産債権者が破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利に影響を及ぼさないとされているからです。(破産法第253条)。免責によって債権そのものが消滅するものではないと考えられるため、その後に専有部分の売買等が行われたときには、区分所有法第8条により、特定承継人に対して滞納管理費等の請求を行うことができると考えられます。 

【参考】

破産法
第253条
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。
ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
    (一~七 記載省略)
2 免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び
  破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。
3 免責許可の決定が確定した場合において、破産債権者表があるときは、裁判所書記官は、これに免責許可の決定が
  確定した旨を記載しなければならない。
区分所有法
(特定承継人の責任)
第8条 前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

相談事例

一人暮らしの区分所有者が亡くなりましたが、ご両親はすでに故人で、兄弟姉妹も子もいないため、相続人がいない状態です。このように、区分所有者が亡くなり、相続人がいない場合、管理費等は誰が負担することになるのですか。

篠原先生の回答

相続人全員が相続放棄した場合、または、戸籍上相続人となるべき者が見当たらない場合、相続人がいないということになります。この相続人がいない状態のときは、管理費等を負担すべき者が存在しないことになります。
では、ご相談の事例のように、相続人がいない場合は、どのような手続きになるか、想定してみましょう。
相続人がいない場合について、民法は「相続人のあることがあきらかでないとき」とし、「相続財産は、法人とする」と定めています(民法第951条)ので、基本的には、この法人である「相続財産」が管理費等の支払い義務を負うことになるのですが、法人とはいえ、代表者となるべきものがいないため具体的に請求することができません。そこで、「相続財産」の代表者となる相続財産管理人の選任が必要となります。この選任は、利害関係人等の請求により、家庭裁判所が行います。通常、その専有部分について抵当権者等他の債権者がいる場合は、優位の抵当権者等が相続財産管理人の選任の申し立てをすると思われますので、その手続きを待つことが考えられます。
相続財産管理人が選任されれば、被相続人の債務を支払うなどして清算を行いますので、その相続財産管理人に管理費等を請求することができます。しかし、マンション専有部分以外に相続財産がないような場合には、 支払うお金がないことが多いでしょう。次の段階として、相続財産管理人が、当該専有部分の売却処理等の手続きをする、または抵当権者が抵当権を実行するなどの手続きが行われることになります。専有部分の売却処理等の手続きにより、相続財産管理人の手元に、ある程度のお金が残れば、そこから支払ってもらうこともできるでしょうが、そのようなケースは稀だと思われます。最終的には、その専有部分を買い受けた特定承継人である新区分所有者に管理費等を請求することになるのがふつうです。 したがって、実務上は、他の債権者の動向をしばらく静観し、特定承継人が確定した段階で、具体的に管理費等の請求をするケースが多いと考えられます。
管理組合が利害関係人として家庭裁判所に対して相続財産管理人の選任を申し立てることも考えられますが、必要書類の取り寄せなど煩雑な手続きに加え、相続財産管理人に対する報酬等の費用を裁判所に予納する必要もあるため、消滅時効の完成が迫っているなど特別の事情がない限り、管理組合自ら積極的に行うことは得策ではないでしょう。

【参考】

民法
(相続財産法人の成立)
第951条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
(相続財産の管理人の選任)
第952条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。 

相談事例

滞納者への法的措置遂行の議案に滞納者氏名等を記載してもよいですか。
また、掲示版へ長期滞納者の氏名を公表することは、問題がありますか。

篠原先生の回答

滞納者への法的措置遂行の議案の中に滞納者氏名・滞納額を記載すること、また、マンション掲示板に管理費等の長期滞納者の氏名を公表することは、名誉毀損やプライバシー侵害などの問題になることもあり、不法行為を構成する可能性は否定できません。
滞納者への法的措置遂行の決議を得る際には、決議に必要な情報(滞納額・滞納期間等)が提供されていれば、対象者(被告又は債務者)の具体的な住戸番号、氏名は議案書等に必ずしも記載が必要とされるものではないと思われます。また、掲示板に長期滞納者の氏名を公表するなどの制裁措置より、訴訟や強制執行など、管理組合として正当な法的手段を講じることが大切ではないでしょうか。
氏名等を公表する行為は、名誉毀損や家族に子どもがいる場合の配慮不足など、別の問題に発展し、管理組合や理事長に対して損害賠償請求の裁判を提起されることも懸念されるため、避けるべきでしょう。
マンションの事例ではありませんが、別荘地における町会の管理費滞納者の氏名等を立看板に記載し公表したことが名誉棄損による不法行為になるか否かが争われた判例があります。(東京地裁 平成11年12月24日判決)
この判例では、立看板の設置に至るまでの経緯、その文言、内容、設置状況、設置の動機、目的、設置する際に取られた手続等に照らすと、立て看板の設置行為は、管理費未納会員に対する措置としてやや穏当さを欠くきらいがないではないが、別荘地の管理のために必要な管理の支払いを長期間怠る原告らに対し、会則を適用してサービスの提供を中止する旨伝え、ひいては管理費の支払いを促す正当な管理行為の範囲を著しく逸脱したものとはいえず、原告らの名誉を害する不法行為にはならないと解するのが相当である、という判決を下しました。
しかし、この判例は、上記の個別事情があって下された判決であり、マンションにおいて同様な事例に対し、一律に適用されるものではないと考えます。

【参考】

東京地裁 平成11年12月24日 平10(ワ)5448号 判決
<要旨>
管理費の未納者を公表する立看板の設置は名誉を害する不法行為を構成せず、慰謝料請求が棄却された事例。
(出典:ウエストロー・ジャパン)

相談事例

滞納者に対する区分所有権の競売請求は有効ですか。

篠原先生の回答

区分所有権の競売請求については、区分所有法第59条に「・・・、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもって、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる」との定めがあります。
管理費等の滞納者に対して、区分所有権の競売請求が認められるか否かが問題となった判例を二つ紹介します。 東京高裁 平成18年11月1日判決と、東京地裁 平成24年9月5日判決です。
いずれの判例も、長期間の管理費等の滞納は、区分所有法第6条第1項にいう、「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するものとしていますが、同法第59条の、「他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」という要件を充足するか否かについて、競売請求に至るまでの手続き・状況によって判断が分かれています。
平成18年の東京高裁の判決では、この要件を充足しないとして競売請求を棄却していますが、平成24年の東京地裁の判決では、この要件を充足しているとして競売請求を認容しています。
管理費等の滞納については、区分所有法第7条による先取特権が認められており、先取特権の実行により、あるいは債務名義を取得して、滞納している区分所有者が有する財産に強制執行をすることにより、滞納管理費等の回収を図ることができます。管理組合としては、まず先取特権の実行や財産一般に対する強制執行という方法を考えるべきでしょう。それらの方法をもってしても、滞納管理費等の回収ができないと認められる場合にはじめて、区分所有法第59条競売を検討することが大事です。

【参考】

区分所有法
(区分所有者の権利義務等)
第6条 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第57条 区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
(区分所有権の競売の請求)
第59条 第57条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
判例
東京高裁 平成18年11月1日 平18(ネ)3643号 判決
<要旨>
マンションの管理組合である控訴人が、同マンションの区分所有者で、長年管理費等を滞納している被控訴人に対し、同人の区分所有権等の競売を求めたところ、原審で請求を棄却されたため、控訴した事案において、被控訴人の本件滞納は、区分所有法6条1項所定の建物の使用等に関し区分所有者の共同の利益に反する行為に該当し、同法59条1項所定の区分所有者の共同生活上の障害が著しい場合に当たるものの、本件は、本件区分所有権等に対する先取特権の実行や強制執行によって本件管理費等の債権回収を図る可能性がない場合であるとは認められないから、同法59条1項にいう「他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」の要件を充足しないとして、原判決を維持し、控訴を棄却した事例。
(出典:ウエストロー・ジャパン)
東京地裁 平成24年9月5日 平24(ワ)7366号 判決
<要旨>
リゾートマンションの管理組合の管理者である原告が、同マンションの区分所有者である被告に対し、被告が管理費を長期間にわたり滞納したことから、定期総会における決議を踏まえて、建物の区分所有等に関する法律59条1項に基づいて、被告所有の区分所有権及び敷地利用権につき競売を求めた事案において、被告による管理費等の滞納は、建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反し、区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である行為に当たるとして、原告の請求を認容した事例。
(出典:ウエストロー・ジャパン)

相談事例

売買等の中間取得者にも滞納管理費等を請求することができますか。

篠原先生の回答

売買等の中間取得者が特定承継人にあたるか否かについては、裁判でいくつか争われてきた問題です。過去の判例では、中間取得者は特定承継人にあたらないとするものもありましたが、最近の判例は、中間取得者も特定承継人にあたるとするものが多いようです。
東京地裁の平成20年11月27日判決では、以下のように説明しています。
区分所有法7条及び8条は、適正な管理に必要な経費等にかかる区分所有者の債務について、その履行の確保を図るため、債務者の区分所有権及び区分所有建物に備え付けた動産(以下「区分所有権等」という。)に対する先取特権を法定するとともに、債務者たる区分所有者からの特定承継人に重畳的※に債務を負担させたものである。そして、区分所有法8条は、特定承継人に対する債権行使の手段を同法7条の区分所有権等上の先取特権の実行に限定していないから、特定承継人の区分所有権等以外の一般財産に対する同条の責任追及も可能である。このように8条の特定承継人の法定責任は7条の先取特権と直接リンクしたものではなく、先取特権とは別途追及することもできる責任であることからすると、8条の責任主体を区分所有建物の現所有者たる特定承継人に限定する必然性はなく、むしろ、中間者たる特定承継人についても、債務者たる区分所有者の特定承継人としてひとたび債務者と重畳的に債務負担すべき法的地位に就いた以上は区分所有権喪失後もその地位に留まらせることが、建物の適正な維持管理に必要な経費等の債務の履行確保を図ろうとした8条の趣旨に適うというべきである。また、実際上も、マンションの管理組合が共有部分の管理に要した費用が、8条が引用する7条1項に規定する債権の多くの部分を占めるところ、中間者たる特定承継人は、区分所有権を取得してからこれを喪失するまでの間に、前区分所有者が支払を怠った費用を他の区分所有者や管理組合が肩替わりすることによって維持管理された共有部分を使用できる利益を享受する一方で、その間8条の責任を懈怠したまま区分所有権を第三者に移転したのであるから、区分所有権を喪失した後も8条の責任を負わせることが衡平というべきである。
また、類似の判例として、大阪地裁の平成21年7月24日判決もあります。
こうした最近の判例の考え方に立てば、売買等の中間取得者にも滞納管理費等を請求することができると考えられます。
※重畳的 - 幾重にもかさなっているさま。

【参考】

区分所有法
(先取特権)
第7条 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
(特定承継人の責任)
第8条 前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。
判例
東京地裁 平成20年11月27日  平20(ワ)9871号 判決
<要旨>
マンションの管理組合である原告が、マンションの区分所有者が管理費、修繕積立金、駐車場賃料及び駐輪場賃料を滞納した後に同区分所有者から区分所有権を不動産競売により取得した被告及び本件訴訟継続中に被告からこれを買い受けた引受承継人の両名に対し、管理費及び修繕積立金の遅延損害金並びに駐車場及び駐輪場の各賃料とその遅延損害金の各支払を求めた事案において、本件駐車場賃料及び本件駐輪場賃料も、建物の区分所有等に関する法律8条所定の「債権」にあたり、また、被告は、本件区分所有建物を売却した後も、区分所有等に関する法律8条所定の「特定承継人」にあたり、本来の債務者と8条所定の特定承継人である被告及び引受承継人の債務は、相互に不真正連帯債務関係に立つと判断して、請求を認容した事例。 
(出典:ウエストロー・ジャパン)
大阪地裁 平成21年7月24日  平20(ワ)10021号 判決
<要旨>
中間取得者も「特定承継人」にあたることを否定する理由は特になく、いったん管理費等支払義務を負担することになった中間取得者が、区分所有建物の所有権を手離したからといって、当該義務を免れることになる理由も特にないとし、中間取得者の管理費等支払義務を肯定した事例。
(出典:ウエストロー・ジャパン)