ホーム > バックナンバー(第4回)

弁護士 篠原みち子先生のマンション管理お役立ちコーナー

【相談事例 目次】

相談事例

ある区分所有者の管理費等滞納が6か月を超えました。今までは、管理会社から文書や電話等で督促業務を行っていましたが、今月の理事会時に管理会社から滞納状況の説明と今後の督促について委託契約書の定めによりこれ以上の対応ができないことが報告され、管理組合の理事長名による内容証明郵便での支払催告や法的手続きの提案がありました。今後は、管理組合としては、どのように対応すべきでしょうか。
なお、当マンションの管理委託契約書は、マンション標準管理委託契約書に準じており、管理費等滞納者に対する督促は、6か月間と定められています。

篠原先生の回答

マンション標準管理委託契約書では、「最初の支払期限から起算して○月の間」と管理会社が行う督促期間を定めています。管理会社は、電話、自宅訪問、督促状の三通りの方法で督促を実施しますが、一定の滞納期間を経過した場合には、管理会社は督促業務を一旦終了し管理組合と今後の対応について協議を行うのが一般的です。
ご相談の事例では、管理会社から、今後の対応について理事長名での内容証明郵便による支払催告や法的手続き等の提案があったとのことですが、場合によっては弁護士、司法書士等の法律家への相談等も考慮の上、管理組合の問題として対応すべきでしょう。

【参考】

マンション標準管理委託契約書 第3条(管理事務の内容及び実施方法)
管理事務の内容は、次のとおりとし、別表第1から第4に定めるところにより実施する。 
一 事務管理業務(別表第1に掲げる業務)
二~四(省略)
マンション標準管理委託契約書 第10条(管理費等滞納者に対する督促)
乙は、第3条第1号の業務のうち、出納業務を行う場合において、甲の組合員に対し別表第1 1(2)②の督促を行っても、なお当該組合員が支払わないときは、その責めを免れるものとし、その後の収納の請求は甲が行うものとする。
2 前項の場合において、甲が乙の協力を必要とするときは、甲及び乙は、その協力方法について協議するものとする。
マンション標準管理委託契約書コメント 10 第10条関係
弁護士法第72条の規定を踏まえ、債権回収はあくまで管理組合が行うものであることに留意し、第2項のマンション管理業者の協力について、事前に協議が整っている場合は、協力内容(甲の名義による配達証明付内容証明郵便による督促等)、費用の負担等に関し、具体的に規定するものとする。
マンション標準管理委託契約書 別表第1 事務管理業務 1基幹事務(2)出納 
②管理費等滞納者に対する督促
一 毎月、甲の組合員の管理費等の滞納状況を、甲に報告する。  
二 甲の組合員が管理費等を滞納したときは、最初の支払期限から起算して○月の 間、電話若しくは自宅訪問又は
   督促状の方法により、その支払の督促を行う。  
三 二の方法により督促しても甲の組合員がなお滞納管理費等を支払わないとき は、乙はその業務を終了する。
マンション標準管理委託契約書コメント 24 別表第1 1(2)関係
⑨滞納者に対する督促については、マンション管理業者は組合員異動届等により管理組合から提供を受けた情報の範囲内で督促するものとする。なお、督促の方法(電話若しくは自宅訪問又は督促状)については、滞納者の居住地、督促に係る費用等を踏まえ、合理的な方法で行うものとする。また、その結果については滞納状況とあわせて書面で報告するものとする。

相談事例

通常総会開催後、3か月経過しましたが、管理会社からまだ総会議事録素案が提出されていません。管理会社からの議事録素案の提出期限等の定めはないのですか。
当マンションの管理委託契約書は、マンション標準管理委託契約書に準じています。

篠原先生の回答

マンション標準管理委託契約書に具体的な提出期日や期限の定めはありませんが、総会議事録が管理組合の活動の重要な資料となることを踏まえ、管理会社はできるだけ早く議事録素案を組合に提出することが望まれます。又、総会の議長は、議事録作成者として、総会終了時に管理会社と協議の上、予め素案提出の目安を決めておくようなこともひとつの方法ではないでしょうか。

【参考】

マンション標準管理委託契約書
別表第1 事務管理業務 
2 基幹事務以外の事務管理業務
(2)総会支援業務
  六 総会議事録案の作成
マンション標準管理委託契約書コメント 26 別表第1 2関係
②理事会及び総会の議事録は、管理組合の活動の重要な資料となることを踏まえ、マンション管理業者に議事録の案の作成を委託する場合は、その内容の適正さについて管理組合がチェックする等、十分留意する。  
また、マンション管理業者は、管理組合がチェックする上で十分な余裕をもって議事録の案を提出する。

相談事例

上階の住戸内の洗濯排水ホースが外れ、下階の自室の内装等が汚損しました。管理組合が共用部分の火災保険と合わせて付保している個人賠償責任保険等を使って、速やかに復旧をしたいのですが、上階の区分所有者が示談に応じません。管理会社に示談交渉自体を依頼することはできますか。
当マンションの管理委託契約書は、マンション標準管理委託契約書に準じています。

篠原先生の回答

マンション標準管理委託契約書では、管理会社は管理組合に代わって、組合が行うべき共用部分に係る損害保険契約、マンション内の駐車場等の使用契約、第三者との契約等に係る事務を行うとしています。しかし、これはあくまで共用部分の契約等に係る事務の処理を行うことであり、専有部分である住戸内の事故についての示談交渉等については管理委託業務には含まれません。したがって、管理会社に依頼することはできません。
ご相談の事例では、上階の区分所有者と協議を進めることは当事者間で行うこととなりますので、まずは、管理組合が付保している個人賠償責任保険を活用するかどうか等も含めて、上階の区分所有者と協議を開始することが必要です(保険商品によっては、保険会社が示談交渉サービスを行うものもあるので確認が必要。)。
上階の区分所有者との協議により、管理組合が付保する個人賠償責任保険を活用することになった場合は、当事者間の示談書等とあわせて管理組合理事長の記名押印等が必要になることもありますが、その場合は、管理会社を通じて理事長への取次等の事務処理を依頼することは可能です。

【参考】

マンション標準管理委託契約書 
別表第1 事務管理業務 
2 基幹事務以外の事務管理 
 (1)理事会支援業務    
  ③ 甲の契約事務の処理
    甲に代わって、甲が行うべき共用部分に係る損害保険契約、マンション内の駐車場等の使用契約、
    第三者との契約等に係る事務を行う。

相談事例

管理会社から契約更新の申入れがあったので、理事会としてこれを了承し、管理会社からは重要事項説明会で説明を受けました。その際に出席した組合員から、管理員の勤務時間について、一部変更希望の申し出があり、再度理事会で検討した結果、管理委託費はそのままで管理員の総勤務時間を変更せずに、勤務開始時間と終了時間を変更することで、総会へ上程することとしました。この場合、再度管理会社に重要事項説明会を開催して貰う必要はありますか。

篠原先生の回答

重要事項説明会は、管理委託契約締結の前に、管理業者が管理委託契約に係る重要な事項を説明することによって、管理組合に契約内容の検討や理解の機会を与えようとするものです。したがって、管理会社が重要事項説明会を開催した後に、管理組合の都合で、契約内容を変更することとなった場合は、再度、管理会社が重要事項の説明をする必要はありません。しかし、理事会としては、総会への上程にあたり、理事会議事録や総会議案書等で組合員に対して、変更に至った経緯を説明する必要があります。

相談事例

理事長をしていますが、3か月前に居室で自殺があった住戸が売却予定となり、宅建業者から売買に伴う重要事項の調査依頼がありました。管理会社からは、自殺の件について告知すべきか否かの判断を求められています。住戸内の事故を組合が把握していながら告知しなかったことにより、管理組合が責任を問われることはありますか。
また、この件は、管理会社ではなく、理事長が判断すべき問題なのでしょうか。 当マンションの管理委託契約書は、マンション標準管理委託契約書に準じています。

篠原先生の回答

マンション標準管理委託契約書第14条コメントには、「マンション管理業者が提供・開示できる範囲は、原則として管理委託契約書に定める範囲となる。一般的にマンション内の事件、事故等の情報は、売主又は管理組合に確認するように求めるべきである。」と記載されており、管理会社は、売主、管理組合に確認することなく管理委託契約書に定める範囲外のことについて、宅建業者に情報提供することはできません。したがって、管理会社が管理組合に対して判断を求めていることは理解できます。
ご相談の事例は、住戸内で起きた事件であり、その事実を知っていたとしても管理組合に告知義務はありませんし、責任を問われるようなこともありません。むしろ、住戸の取引に影響等を及ぼすことから売主等に確認することなく、管理組合がその事実を明らかにすることは差し控えるべきです。告知義務は、あくまで住戸の現在の区分所有者である売主にあります。
ご相談の事例では、管理組合は住戸内の事件、事故等については、売主に直接確認して貰うように宅建業者に回答するような対応で問題ないと考えます。

【参考】

マンション標準管理委託契約書 第14条(管理規約の提供等)
乙は、宅地建物取引業者が、甲の組合員から、当該組合員が所有する専有部分の売却等の依頼を受け、その媒介等の業務のために管理規約の提供及び次の各号に掲げる事項の開示を求めてきたときは、甲に代わって、当該宅地建物取引業者に対し、管理規約の写しを提供し、及び各号に掲げる事項を書面をもって開示するものとする。
一 当該組合員の負担に係る管理費及び修繕積立金等の月額並びに滞納があるときはその金額
二 甲の修繕積立金積立総額並びに管理費及び修繕積立金等に滞納があるときはその金額
三 本マンション(専有部分を除く。)の修繕の実施状況  
四 本マンションの石綿使用調査結果の記録の有無とその内容  
五 本マンションの耐震診断の記録の有無とその内容(以下、省略)
マンション標準管理委託契約書コメント 13 第14条関係
①本条は、宅地建物取引業者が、媒介等の業務のために、宅地建物取引業法施行規則第16条の2等に定める事項について、マンション管理業者に当該事実の確認を求めてきた場合の対応を定めたものである。
本来宅地建物取引業者への管理規約等の提供・開示は管理組合又は売主たる組合員が行 うべきものであるため、これらの事務をマンション管理業者が行う場合には、管理規約等においてその根拠が明確に規定されていることが望ましい。
また、マンション管理業者が提供・開示できる範囲は、原則として管理委託契約書に定める範囲となる。一般的にマンション内の事件、事故等の情報は、売主又は管理組合に 確認するよう求めるべきである。