マンション・バリューアップ・アワード

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工事・メンテナンス部門
(建物資産価値の向上)

佳作
汚水排水管の洗浄作業による
マンション資産価値向上

大成有楽不動産株式会社
篠原大祐様

背景

  • 築36年、全20棟310世帯、3階建ての団地型のマンションで、ここ数年専有部内の溢水事故が年に数件のペースで発生するようになってきました。原因を調査したところ汚水排水管内に「尿石」が固着・堆積し、それが何かのはずみで剥がれたことにより、排水管内を塞いでいたことが判明しました。
  • これまで汚水排水管は、配管の径も太く、流れやすく詰まりにくいと考えられていたことから、雑排水管の様な年1回を目安として行われる高圧洗浄作業は不要と判断され、大半のマンションでは汚水排水管の洗浄作業を実施しないのが実状です。この団地型のマンションにおいても、毎年の雑排水管清掃は実施していましたが、汚水排水管については、築36年を経過するまで一切管内の清掃を行ってきませんでした。
  • 最近では流水量を従来の製品よりも少なく設計したタンクを搭載している節水型トイレが普及するようになり、それが溢水事故の一因ではないかと考えました。流水量の多い従来品では尿石固着の原因を汚水管内に滞留させずに排水できていましたが、節水タイプでは流水量が少ないため配管内で汚水が滞留する結果、尿石が固着・堆積しやすい状況になったということです。
  • 詰まりが発生した住戸の多くは1階なのですが、同じ排水管系統の上階に長期不在住戸が含まれている事例が複数あり、そのお宅でトイレが一切使用されないことが流水量の減少に繋がり、尿石の固着を後押ししているのではないかとも考えました。つまり、「流水量の少ない節水型トイレ」「老朽化マンションで発生しがちな空室」がこの溢水事故の要因となっているのではないかと考え、「汚水排水管は洗浄しない」という従来の常識を考え直さなければいけないとの結論に至りました。

目的

  • 頻発していた専有部内の溢水事故を根本から解決するため、汚水排水管の調査と高圧洗浄による清掃を行う。

実施内容〈バリューアップ〉

管理組合に提案するも…

まず、管理組合に対して「汚水が溢れた住戸の精神的苦痛や管理組合の復旧費用の金銭的負担を考慮すると、早急に対策を検討したほうがよいのではないか」と説明。従来では実施例がほとんどなかった「汚水排水管の洗浄」によって、詰まりの要因を除去することを提案してみました。早速業者に見積りを依頼したところ、1000万円超と想定以上の高額になりました。理事会では「必要性は理解できるが、これだけ費用がかかると区分所有者から賛同してもらえるか判断に迷う」と言われてしまいました。

抽出調査で合意形成を図る

そこで、総会で承認してもらうために事前の合意形成を働きかけることが必要だと考え、この作業の必要性を区分所有者のみなさんに理解していただける材料を集めて示していくことにしました。まずは全20棟のうち2棟を抽出して試験的にファイバー調査を行ってみました。すると調査した系統すべての配管内に多量の尿石固着が確認されました。また、調査の際に配管内から固着した尿石を採取できたので、それを密閉容器に入れて、配管内の尿石の固着した様子がわかる写真とともに回覧しました。着々と区分所有者のみなさんの合意形成を進めていきながら、定期総会で全棟の汚水管高圧洗浄実施を上程。事前に回覧した資料により、必要性がしっかりと理解されたのか、この議案は賛成多数で可決承認されました。

共用トイレを開放、非常用トイレも配布

作業行程で問題となったのが作業中の各戸のトイレ使用制限でした。1つの系統で作業は半日を要するのですが、作業中はその系統の住戸でトイレが使用できなくなります。そこで理事会は集会室にある共用トイレを作業中の住戸に使用してもらえるように開放し、理事会役員の皆さんが協力し合って交代でトイレ番を行いました。また、それだけでは不便を感じる場面があることも想定し、段ボールによる組み立て式の災害用の非常用トイレを管理組合で購入し、全戸に配付する工夫もしました。

トイレの養生への工夫

作業中は、高圧洗浄水がトイレから逆流して吹き出す可能性もあるため、洗浄作業中はその系統全戸を確実に養生しておくことが不可欠でしたが、問題となったのは、作業当日に不在となる住戸の養生対策でした。作業当日に不在となる住戸は養生実施されているかどうか確認出来ないため、アンケートによって各系統の作業日における不在住戸を事前に確認し、該当する住戸には不在前日若しくは当日に養生してもらうことを依頼しました。また、養生実施状況を不在になる住戸に直接確認しなくても当日に判別できるように「養生完了」マグネットを該当する住戸に事前配付し、完了したら玄関ドアの外側に貼付してもらうことも併せて依頼しました。

結果

  • 作業は3ヶ月にわたる長期間となりましたが事故や苦情等を一切起こすことなく、無事に作業を完了することが出来ました。
  • 肝心の作業効果ですが、年に数件のペースで発生していた汚水排水管の溢水事故はそれ以降一切発生しなくなり、満足のいく結果が今も続いている状況です。

苦労した点・工夫した点

  • 合意形成のための調査・資料づくり、工事期間中のトイレ問題や養生など、様々な工夫をしました。

居住者の声

理事「無事工事が終わってほっとした」

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受賞事例

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