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  • 2011年春号

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共用部分のアイデアリフォームというと、玄関回りを改善改良して最新のマンションに対して見劣りしないようにする、階段室型マンションにエレベーターを付けて高齢化社会に対応する、旧式の狭い公団型の階段室型マンションの隣り合った2戸や、上下2戸を1戸にして時代に合った広さのマンションに改修する等、デザインや機能面での改善改良、リノベーションなどが思い浮かべられますが、今回は少し違った角度からの共用部分の改善改良アイデアについてお話ししたいと思います。

◆外壁の塗料の選択によりマンションの寿命を延ばす

マンションの改修は建築家のやるべき重要な責務である、と考えた私達のような建築家数名がJIA日本建築家協会の中にマンション改修の専門部会であるメンテナンス部会を立ち上げ、マンションの正しい改修技術の研究とその普及活動を続けて20年以上経過しました。その間、塗料メーカーに対して、躯体コンクリートに馴染みやすい水性のセメント系塗料の開発を促してきました。塗料メーカーもそれに応えて、セメント系の塗料が作られ、一般的に使用できるようになりました。

コンクリートはアルカリ性ですが、放置しておくと空気中に含まれる排気ガスなどの有害物質や雨水に侵されて、表面から徐々に酸化してアルカリ性が無くなり、コンクリートが中性化していきます。中性化が鉄筋の位置まで進むと鉄筋は錆びて膨張し、コンクリートは破壊されます。中性化が表面から3センチ奥にある鉄筋の位置まで進むのに70年程度掛かることが、コンクリートの建物の寿命が70年といわれてきた根拠です。

しかし、セメント系の塗料で建物の外壁を塗装することによって、中性化の進行が止まることが最近になって分かってきました。私が継続して設計監理を行っている2つのマンションで、12年前の大規模修繕工事と今回の大規模修繕工事に合わせ、事前に測定した中性化の進み具合を比較してみたところ、2つのマンションで中性化の進行の程度が2~3㎜少なくなっていました。

これは何を意味するのか考えてみると、築20年のマンションをセメント系の塗料で塗装し直すことによって、12年後にコンクリートの中性化は、築10年のマンションの状態になったということを示しています。即ち、マンションのコンクリートは若返ったということです。コンクリートの中性化は外側からだけでなく、内側からも進みますが、外側から見た限り、セメント系塗材を塗装することによって、コンクリートの寿命は延ばせる可能性があるということを意味しています。これは新しい発見でもあり、私達のみならず、塗料メーカーサイドでも驚きの結果でした。私達の建築家仲間が設計監理をしているマンションでも同じような測定結果が出ています。もちろん、外壁の塗装だけ行えばよいというものではなく、ひび割れの補修や防水の改修など、大規模修繕で行うような一般的な修繕を合わせて行うことが重要です。

築36年の川崎のマンションでは、12年前の塗装時の調査では平均11ミリであった中性化深度が、近年の調査時には平均8ミリと躯体の劣化が抑えられていることが分かりました。このマンションでは、これまでは新築時のマンションの塗装色を継承して塗り替えを行ってきましたが、三回目の大規模修繕を機に外壁の色を変更することになり、いくつかの変更案を提示して住民の投票により塗装色を決定しました。それまでは明るめのグレーであった外壁が、温かみのあるベージュに変更となり雰囲気が一変しました。合わせて、エントランスもアルマイト色の開き戸だったものを木製のものに一新した他、各住戸の玄関ドアも新築時の鋼製のプレスドアから、最新の断熱材の入った意匠性の高い玄関扉に更新するなど、グレードアップを図っています。

◆専有部内の設備配管を共用部として改修する

高経年のマンションでは、設備の更新も重要です。武蔵野市のマンションでは共用部分だけでなく、専有部分内の給水管・給湯管更新を全戸で実施(内装の一部を壊し配管して復旧)、杉並区のマンションでもそれに加え、下階の天井裏に配管されている排水管の更新までの実施(上階の排水管工事のために下階の天井を壊して工事して復旧)を、大規模修繕の中で全戸での実施を条件に、修繕積立金を利用して更新した事例があります。

他にも私達の事務所で必ず行っているのが、換気扇のダクト内の清掃です。マンションの換気扇には台所系、浴室系、便所・洗面所系統とだいたい3系統の換気扇ダクトがあります。お住まいの皆さんは換気扇の清掃は行う方もいらっしゃるのですが、ダクトの中となると通常は行っていません。しかし築後10年もすると、台所系では油の汚れが、便所系では服の脱ぎ着のために細かなホコリが、ダクト管内に溜たまってダクトの管径を半分程度にしてしまっており、換気機能を著しく阻害しているケースが見受けられます。これを大規模修繕工事の中に組み込み、全戸のダクトを清掃専門業者に清掃してもらうことで、換気扇の引きの悪さが改善されるだけでなく、新築時からのダクト配管の不具合や施工不良(スパイラルダクトが錆びてボロボロになっていた例や、換気口と換気扇が接続されていなかった例などがある)などが発見され、改善したというケースもあるのです。

これらのケースでも以前よりコンサルタントを行っており、管理規約の見直し等も含め、配管更新に伴う専有部内の内装工事まで修繕積立金で行えるよう長期修繕計画の中で計画し、総会や住民説明会の中で意思統一と合意形成を行っていたことで工事が実現しています。

こういった事例は、1つのマンションを1人の建築家(もしくは1つの設計事務所)が継続して、広い視野を持って大規模修繕のコンサルタントを務めない限り、なかなか見えてきませんし実行することもできません。マンション改修のコンサルタントというのは一度かかわったら終わりではなく、継続して長期的な修繕計画の元にそのマンションにかかわり続け、計画修繕も適宜見直して資金計画のことも考慮し、調査の上で先延ばしにできる工事は先に延ばすなど資金計画にも気を配り、そのマンションのことを熟知した、人間でいえば掛かり付け医師のような関係を保つことが重要です。

このようにマンションの骨格ともいえるコンクリートの寿命を延ばすとともに、血管となる電気や給排水換気設備の更新を正しく行うことができれば、後は経年で劣化していく防水、手すりや窓サッシなどの2次部材、エレベーターなど機器等をその都度更新していくことによって、100年でも200年でもマンションを使い続けていくことが可能となるのです。

Profile
有限会社日欧設計事務所 専務取締役 一級建築士
建築家、建築コンサルタント、デザイナー
岸崎 孝弘 (Kishizaki Takahiro)

1965年生まれ、京都造形芸術大学卒
マンション大規模修繕のコンサルタントをメインに、住宅設計、住宅リフォーム、店舗デザイン、ウルフルズのステージセットデザインなど、幅広く設計・デザイン活動を行う。
日本建築家協会メンテナンス部会、耐震総合安全機構にも所属し、マンション居住者向けの改修セミナー講師や、都内各区のマンションの耐震診断も手掛けている。
著書に『マンション改修読本』(共著)などがある。