トップページ > 連載 > 建築家によるリフォーム紹介 > 共用部分のアイデアリフォーム
  • 連載
  • 建築家によるリフォーム紹介
  • 2010夏号

記事一覧を見る

マンションの共用部は、マンションの顔であり第一印象を決める重要な部分でありながら、建物の老朽化や汚れ、破損などが目立つ部分でもあります。しかし、安易なリフォームを繰り返すのも考えものです。マンションの価値を維持し使いづらさを解消するアイデアリフォームについて解説しましょう。

◆建物改善の「原因療法」的手段、リノベーション

リノベーションという言葉が巷で話題となる事が多くなってきた昨今。この「リノベーション」を生業とする私に頻繁に寄せられる質問、それは「リノベーション」と「リフォーム」はいったい何が違うのか、です。この問いに対し私はこうお答えします。リフォームとは「物」の更新。リノベーションは「物語」の更新です、と。抽象的な返答ではありますが、この答えが最も的確にリノベーションの真意と必要性を表しているのです。

より具体的に言えば、修繕、保守の延長にあり、物が抱える問題を対処療法的にそれに代わる物で置き換える行為はリフォーム。これに対して、物が抱える問題をより大きく状況の問題と考え、物の存在意義、つまり物語そのものを原因療法的に再検証する行為がリノベーションといえます。

例えば賃貸マンション。30年前であれば需要のあった10坪2DKの間取りでしたが、近年空室が目立つこの間取りをどうするか。2DKの間取りのまま設備、仕上げ類を更新するのがリフォーム。一方でリノベーションとは、そもそもこの広さと間取りの需要は低下したと考え専有面積はそのままに、ニーズの高まった可処分所得の高い単身者向けの広めの1LDKなどにインフィル(内装・設備)を刷新してしまう行為です。物件の存在意義を再検証する訳です。

◆建物に与えられるべき「物語」

建物共用部分のリノベーションをどう考えるか。建物の長期優良化にとって「スケルトン・インフィル」は可変性、更新性などの観点から有効なシステム、発想と考えられますが、実は共用部分はこのどちらにも当てはまりません。ただし全ての専有部分の価値を大きく左右する重要な部分なのです。なぜ重要なのか。共用部分のデザインとは、建物を利用する人々にとって、その集合体としてのアイデンティティーを担っている部分だからなのです。アイデンティティーとは正に建物に与えられるべき「物語」。これを仮にリフォームの発想で対処療法的に部分更新を重ねていくとします。バリアフリー対策で手すりとスロープを設置。セキュリティー対策として共用玄関に電気錠を設置、照明が暗いので照明器具を変更。単身者が増えたので宅配ボックスを設置。などなど、気がついてみれば総合的なビジョン無しに「物」で状況を改善しようとリフォームを繰り返したばかりに共用部分は一貫性、統一性を欠き、アイデンティティークライシスに陥っているケースが多くみられます。結果として資産価値を低下させる原因ともなるでしょう。

よくある「旅館」や「ホテル」が無計画に部分的なリフォームを繰り返し、結果として無個性な競争力の低い施設となってしまっている状況に似ています。単体の物、設備を他と比較し、足りないものを補うという方法は際限ない投資を必要とするため、経済性を成り立たせようとすれば、中途半端な状況に陥ることもあるのです。

建物を「スケルトン(構造体)」と「インフィル(内装・設備)」に分けて設計する考え方

◆方向性の明確な多角的リノベーションを

物を見て対処策を考えるのではなく、総合的な状況を見て為すべき事を決定しなければなりません。どんな相手のために、どう差別化を図るのかをそもそもの観点から検証された施設は、改良のために必要なものは勿論のこと、それ以外に「必要の無いもの」も見極める事が可能になり、結果としてメリハリをつけた経済性の高い効果的な投資が可能になるのです。

ここに紹介するマンション共用部分のリノベーションは80年代バブル期に建設された高級賃貸マンションの再生プロジェクトです。場所は東京、新宿三丁目駅より徒歩5分。延床面積約1万㎡、110戸のマンション。各住戸の専有部分面積は45㎡、90㎡を中心としており、高級マンションとしては決して大きすぎる間取りではありませんでしたが、著しく入居率が低下していました。「高級マンション」に必要とされるサービス、設備を経済的に維持して行くことが難しくなり抜本的な改善策を要していました。

この状況に対しては「高級マンション」路線の継続を断念する、ということから始まりました。同地域はSOHOニーズが根強く、当建物の専有面積の標準的な大きさはこれに合致するものでした。新しく目指す「物語」は「ホテルで仕事をする」感覚のSOHO「Suite Office HotelOffice」でした。ホテルタイプとはいえSOHOゆえに専有部分の改修は最小限シンプルな空間提供に抑え、ダブついていた共用エントランス部分の一部を防火シャッターで区画して店舗スペースを確保。隣接していた集会室を厨房スペースとしてカフェテナントを誘致し、建物の顔をつくると同時に、テナント企業の打合せ、ランチミーティングなどが可能な利便施設としました。尚、店舗面積は55平米に抑えているため、用途変更の申請は必要ありません。建物外観は往年のタイル張りのマンション然とした印象を一新するために、鉄骨のスクリーン状の意匠で前面道路に面した壁面のみカバーをしています。

この方向性の明らかな多角的なリノベーションにより、建物は明確なアイデンティティーと差別化された付加価値を再び手に入れる事となったのです。

Profile
大島 芳彦(Yoshihiko Oshima)
[ブルースタジオ専務取締役]
建築家、建築コンサルタント
1970 年東京生まれ。93 年武蔵野美術大学卒業後海外で建築を学び、2000年ブルースタジオ取締役に就任。リノベーションをメインに、消費者のライフスタイルニーズに合致した住まいやオフィス空間を多数プロデュースし、WEB サイトを通じて消費者へ提供するまでに関わっている。
「ラティス青山」「ラティス芝浦」「モーフ青山」でグッドデザイン賞受賞。