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  • 2021.07.01掲載

人の老いにどう向き合う?

横浜市立大学国際教養学部教授 齊藤広子

 誰だ!? こんなところに自転車なんか置いて。車いすで通れないじゃないか。それにしても、このマンションは段差が多いな。道路から我が家まで段差ばかりで、車いすでは1人で出かけられない。そういえば、山田さんを最近見ないけれど、どうしたのかな。総会の委任状の提出もなかったし……。
ここに来て30年。マンションも年をとってきたけれど、人も年をとってきたな。まわりは半分以上が高齢者だ。


●人の老い

 高齢化の進行は、マンションだけではありません。2020年9月時点でのわが国の65歳以上の高齢者の数は3617万人、総人口に占める割合は28.7%です。高齢者の割合は、2025年には30%、2040年には35.3%になると推計されており、約3人に1人が高齢者になります(総務省「統計からみた我が国の高齢者 -「敬老の日」にちなんで-」より)。
 「平成30年度マンション総合調査」によりますと、世帯主の年齢は、60歳以上が49.2%となっています。特に、築年数の経ったマンションで高齢化が進行しており、役員の構成でみますと、60歳以上の占める割合は全体で41.9%ですが、築年数が30年になると59.2%、築年数が20年になると36.6%になっています。
 日本ではマンションでの永住意識が高く、永住するつもりの人が62.8%となっています。よって築年数が経つとマンションでの人の高齢化も進んでいきます。

平成30年度マンション総合調査結果より
※築年数区分は、便宜上上記表記とした。

●人の老いによる問題

 人の老いが進むと、マンションではどのようなことが起こってくるのでしょうか。
 管理組合の運営面では、「管理組合役員のなり手が不足する」ということがあげられます。前出のマンション総合調査によると、管理組合の役員を引き受けない最も多い理由が「高齢のため」となっています。そのため、管理会社への委託業務を増やす、あるいは外部専門家を役員にすることも検討されますが、これらは管理費の値上げにつながり、実際には難しくなっています。さらには区分所有者の収入の減少で管理費の滞納が増え、また居住者の高齢化に伴い車を手放す人が増えて、駐車場に空きが出ることで駐車場収入が減少するなど、管理組合収入の減少につながっていきます。総会への参加率や委任状等の提出率の低下などもあります。さらに認知症の人への意思確認が求められることや、管理の方針を決める総会では若い世代と高齢世代の意見が合わないことにより合意形成が難しくなることもあります。このほか、入院・施設入所等による一時不在者が増えることでの不在所有者の増加、さらにはマンション住戸の相続放棄があり、なかなか所有者が確定しないなどの問題もあります。
 維持管理面では、居住者に高齢者が増え、共用部分のバリアフリー化が課題となります。例えば5階建てでエレベーターがないマンション、あるいはエレベーターがあってもスキップフロア型のマンションでは各階に止まらないため、エレベーターが止まらない階の住戸の居住者が車いすを利用する場合、移動に支障が生じます。また、スロープの設置や階段・廊下への手すりの設置、高齢者用機器(シニアカー)の駐車スペースの確保等の需要が高まりますが、改修の費用がかかります。しかし、所有者の費用負担能力や改修意欲が低下し、実行に至りにくいのが現状です。さらには、一人暮らしの高齢者が、大規模修繕工事の際に専有部分への立ち入りを拒否するなどの事例もあり、維持管理面で多様な問題が生じています。
 生活管理面でも様々な問題が発生しています。孤独死、マンション内の徘徊、身寄りのない入居者の死亡後の対処、水道の止め忘れによる漏水事故、ガスの止め忘れによる火事・爆発事故、ゴミ出しが困難、エントランスのオートロックが通過できないなどのほか、救急車の出動時への備え、緊急通報システム利用者への対応等があります。

スキップフロア型のマンション…エレベーターを各回止まりにしないことから、両面にバルコニーを設けることができる。また、廊下側の居室の外を人が通ることがないため、視線等を気にする必要がなくなる。しかし、エレベーター停止階に居住していない場合は、エレベーターを降りた後、階段で登るか降りるかして自宅に向かう必要がある。