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  • 2020.01.06掲載

管理不全マンションにならないために

横浜市立大学国際教養学部教授 齊藤広子

え!? 解体命令!? なんで俺のマンションを「解体しろ!」なんて言われなければいけないんだ?
いい加減にしろよ。俺のマンションなんだから、俺の勝手じゃないのか?ほっといてほしいよ!
なんか、役所に登録しろとか、届けろとか、よくわからないよ。なんでマンションに役所が関係するんだろう?


●管理不全マンション

 マンションはすっかりわが国の居住形態として定着してきました。マンションを全く知らない人や見たことがないという人は、少ないのではないでしょうか。国民の約1割がマンションに居住し、東京都では約4分の1の人がマンションに居住しています。現在のマンションのストック数は、日本全体で約650万戸。本格的に供給されるようになってから50年以上が経ちました。そのため、築年数の経ったマンションも増えています。そうしたなかで、管理が適正に行われないため、マンションに住めなくなるだけでなく、地域の人を不安にしているマンションも出現してきました。「管理不全マンション」です。そうした実態があちらこちらで紹介されています。役所がマンションの所有者を探し出し、「近隣や地域に迷惑をかけるから解体しなさい」という命令まで出す事態になってきています。
 管理不全マンションとは、「維持・管理や修繕が適切に行われず、外壁が落下するなど周辺にも悪影響を与えている状態のマンション」です。また、管理不全の兆候があるマンションとは、「管理運営における体制の未整備や資金不足等により、維持・管理が適切に行われておらず、そのまま放置すると管理不全に陥る恐れがある状態のマンション」です。これは東京都の定義になります。実際に、こうしたマンションが東京都でも、私の大学がある横浜市でも現れてきています。

●なぜ、管理不全マンションに?

 なぜ、管理不全になってしまったのでしょうか。リゾート地の場合、スキーなどのリゾートに来る人が少なくなり、大幅に需要が低下したことが挙げられます。その結果、マンションを売りたくても売れない区分所有者が増加し、管理費等の滞納が起こり、温泉やレストランの運営が難しくなっていきます。そうすると、マンションの魅力がますます低下し、人々が去っていくという負の循環になるのです。
 横浜市などの都市部では、管理不全になるパターンとして5つありました。1つめは、マンション内の住戸を買い占めていた業者が倒産した事例です。抵当権者等の関係者が多く、方針が決定できず、マンションが7~8年放置されたままになっています。2つめは、等価交換方式の元地主所有の住戸があるマンションです。元地主所有の住戸が複数あり、それを賃貸に出しているため、所有者の実住率が低くなっています。そうしたなか、元地主が頑張って管理をしてきたこともあり、当初より管理組合や管理規約、長期修繕計画、修繕積立金といった基本的な管理体制はなくとも、どうにか対処してきました。しかし、元地主が亡くなり、管理のリーダーシップを取る人も体制もないことから、管理が行われていない状況です。3つめは、テラスハウスやタウンハウスなどの長屋形式のマンションです。エレベーターもなく、低層少戸数であるため、問題があればその場その場の対応でやってきたのですが、さすがに大規模修繕に対応できるだけの体制がなく、管理が行われていません。4つめは、小規模自主管理のマンションです。区分所有者が住み、若いうちはみんなで手分けして管理をしていたのですが、賃貸化や空き家化が進み、不在となる所有者も。さらに所有者の高齢化が進み、理事のなり手もなく、管理の実行部隊がいない状態です。5つめは、小規模雑居型のマンションです。店舗区画と住居区画で管理についての合意形成が難しく、管理が適正に行われていません。
 これらのマンションに共通していることは、管理組合が実質的にない、管理規約がない、管理者等がいない、長期修繕計画がない、修繕積立金がない、そして管理組合を適正にサポートする管理会社の支援体制がないことです。つまり、民主的、合理的、計画的に管理を進めるための体制のないマンションということです。

●東京都が始める行政への届出制度:対象のマンションは?

 こうした状態を考え、東京都ではマンションの管理状況の届出制度が始まります。管理不全にならないように、マンションの基本的な情報を届け出る制度です。まずは1983年以前につくられた、6戸以上のマンションが対象となります。
 1983年以前としたのは次のような理由があります。1つは1983年に区分所有法が大きく改正されたこと。当時は、新たな法律が生まれたようだとも言われました。主な改正点として、区分所有者の団体、いわゆる管理組合が当然成立とされました。それまでは、土地と建物の所有者がバラバラであったものや敷地の所有権がない住戸が存在したなどがあったのです。専有部分と敷地利用権が一体化され、共用部分や規約の変更などは、全員同意から、区分所有者数・議決権の4分の3以上の多数の賛成でできるようになりました。そして、標準管理規約も作成されました。よって、それ以降のマンションでは標準管理規約に沿って規約が設定され、管理体制が整えられていきます。しかし、それ以前のマンションでは、いまのマンションからみれば、「うそでしょ!?」というような管理方法が行われている場合があります。つまり、管理不全に陥りやすい状態のマンションが多くあるかもしれないということです。
 2つめの理由は、旧耐震基準のマンションが多く含まれている可能性が高いということです。1978年の宮城県沖地震でマンションなどの建物の被害が大きかったことがあり、地震に対する建物の強さの基準を見直し、新しい基準の改正建築基準法が1981年6月1日から施行されました。よって、それ以前に建築確認を受けたマンションは古い基準(旧耐震基準)が適用されており、地震に対して弱い可能性があります。改正前の駆け込み申請などもあり、竣工年が1983年というのが実質的な新耐震基準と旧耐震基準を分ける一つの目安となるだろうということです。したがって、それ以前のマンションは、耐震補強などのハード面で抜本的な体質改善が求められるかもしれません。
 さらに、3つめの理由は、築年数が経っている場合、「建物の老い」と「居住者の老い」の「2つの老い」が深刻になりだすのが概ね35年であるということです。つまり現時点では1983年以前のマンションということになります。人間でいえば、古稀の半分ですが、マンションでは再生を考え始める時期でもあります。いままで建替えをしたマンションは概ね築35年頃から建替えの検討をしています。
 それ以外のマンションは、届け出る必要はありませんが、東京都から求められれば届け出なければなりません。また、自主的な届出も可能です。