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  • 2013年冬号

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東日本大震災の被災体験を教訓に、管理組合と自治会によって自主防災組織を立ち上げた大規模マンションがあります。年に一度の防災訓練にお邪魔し、訓練の様子をお伝えするとともに、自主防災組織の体制や、その活動内容についてご紹 介します。

◆震災の混乱から得た教訓

おはようございます」、「今日は朝からご苦労様」。笑顔で挨拶を交わしながら、コミュニティホールの中に、次々に人が吸い込まれていきます。

千葉県我孫子市に位置する、全20棟・総戸数994戸という大規模マンションの防災訓練。あいにくの雨で、楽しみにしていたはしご車での救助訓練などはできませんでしたが、ホールで行われたスライド上映には多くの人がつめかけ、ホールから人が溢れてしまったほどの盛況ぶりでした。

忘れもしない2011年3月11日、未曾有の大災害・東日本大震災が起きました。東北3県の目を覆いたくなるような惨状の中で、千葉県・茨城県などの関東地方もまた、津波や液状化に襲われ、被害を受けたのです。

この大規模マンションにも、「その日」はやってきました。震度5強の揺れに見舞われ、高層棟のエレベーターが停止。給湯・給水などのライフラインは損傷し、建物は一部ひび割れて、地盤沈下のため建物の周囲が数箇所陥没するなど、多くの被害が出ました。

築35年のこのマンションでは、入居と同年に管理組合を設立し、そのわずか数年後には自治会も発足して、それぞれが強固な組織をつくり上げてきました。そして、どちらにも防災対策のための組織があったのです。震災当日は、管理組合がライフライン被害への対応、自治会が安否確認などに努めたものの、それぞれがバラバラに動いたことで、混乱を招いた面があったそうです。この教訓を受けて、「災害時には全ての情報を一元化して発信する必要がある」との認識に達し、防災組織のあり方を再度見直すことになりました。

そこで、管理組合理事と自治会役員らが1年がかりで検討した結果、今年5月に「防災委員会」が立ち上がったのです。

◆防災のための自治組織が誕生

組織の概要は以下のように決まりました。

まず組織の人数は、防災委員長兼統括防災管理者1名と、棟ごとに選任された「棟防災管理者」による全25名。4人の役員のもとに総務部、防災訓練部、生活支援対策部、コミュニティ推進部の4つの専門部を配置しています(平時の活動については図表参照)。
大災害が発生した際には、管理組合理事長と自治会会長の判断で1時間以内に「災害対策本部」を設置。管理組合、自治会、そして防災委員会の全メンバーが災害対策要員となり、総力を結集して災害対策に臨むとともに、情報の一元化と居住者への発信に努めます。

この防災委員会の肝となるのが、「管理組合と自治会との協働」です。防災に関わる費用などは管理組合の決定に基づき、行政や地域との連携については自治会を通じて行うことで、スムーズに防災活動を推進することができるのです。

「管理組合・自治会ともに既に30年以上経っており、それぞれが組織として成熟していたことが大きかった。管理組合と自治会とが協力し合う形態は、マンションにおける防災組織のあり方として理想的なのではないでしょうか」と、防災委員長の今井正弘氏は言います。

ただし、課題もあります。築年数が経っているため、居住者の約半数が60歳以上と高齢化が進んでいるのです。しかも、独居老人も増えており、その把握が急務となっています。

「大事な個人情報ですから、居住者の方に『教えてください』と頼む前に、まず私たちが信頼に足る存在となることが大切」と今井氏。そのために、頻繁に棟ごとの集会や懇親会を行って顔見知りをつくるなど、地道な努力から始めています。

◆ 震災以降、関心が高まる防災訓練

当マンションでの防災訓練の内容は、以下の通りです。

● 防災集会 震災時のマンション被害写真や防災用品の展示
●炊き出し
●はしご車体験※
●消火器体験※
●隣家との防火壁破壊体験※
●簡易トイレ等操作体験※
※は、雨天により中止

消防の指導による応急処置体験※ 震災以降、初めて実施した昨年の防災 訓練には、300人以上の居住者が参加 したそうです。今年も雨の中、約350人 近くの参加者がありました。「防災意識 が高まっているのを感じる」と、自治会長の小松弘道氏は語っていました。